投稿その9

 今朝発覚した大事件。真純くんは花ちゃんにぞっこんラブ(古い)疑惑。

 もし、お互いに気になっちゃってる関係だとしたら、私は「通学ブロック」……えっと、上手いこと言おうとして失敗した。

 もし二人がいい感じなんだとしたら「不登校」に私はなる!

 さっそく明日、探りを入れてみよう。そのためには……。


「かおりん!昨日SNS更新してなかったよね」

「うん。それがさ、ちょっと悩んでてさ」

 よしよし。さっそく花ちゃんが食いついてきた。昨日はわざとインスタもツイッターも更新しなかったんだよね。

 隣の席の真純くんは、私が来たときからずっと友達と話をしている。よしよし、いいタイミングだ。

 昨日の時点で、花ちゃんのことを「可愛い」と思ってるのはわかってるから、今日探りを入れるターゲットは花ちゃんだ。

「ねぇかおりん、困ってることあるなら何でも聞くよ」

「うん、ありがとう」

 うぅ……花ちゃん優しいなぁ。こんな優しい子に探りを入れるなんて申し訳ないな。でも私の恋のためならやらなきゃ!

「あのね、実はね、もしかしたら彼が、私の他に好きな人ができたかもしれなくて、気になっちゃって……」

「えーっ!彼氏さんが?それ大変じゃない!でもどうして?」

「なんかね、私以外の子を可愛いって言ってて……」

「うーん、そっか……」

 花ちゃんが真剣に考えはじめた。腕を組んでずーっと考えてくれている。

 ようやく答えが出たのか、花ちゃんは私の目を見て、微笑みながら言った。

「……それさ、どういう意味の「可愛い」かにもよるよね」

「えっ?どういう意味の可愛い?」

「例えばさ、猫の動画とか見ると「可愛い」って思うでしょ」

「うん」

「でも好きな人のことを「可愛い」って思った時は「ギュッと抱きしめたい!」って気持ちになるよね」

「う、うん」

「だからさ「愛くるしい」可愛いと「愛おしい」可愛いって全然違うんじゃないかな」

「……そうかも」

「彼氏さんはさ、かおりんのことも可愛いって言ってくれるんでしょ」

「う~ん、それが、あんまりっていうか、ほとんど言われたことないかも……」

 ――あ、しまった!つい真純くんのこと思い出しながら答えちゃった。

「そしたら、いつか言ってもらえる日が待ち遠しいね!」

 花ちゃんはニコッと笑った。


 うぅ……花ちゃん優しすぎる……。

 探りを入れるはずが、いつの間にか花ちゃんの「いい話コーナー」になってたよ。

 ごめんね、花ちゃん。やっぱりストレートに聞くよ。

「花ちゃんさ、おとといの放課後、花屋さんにいた?」

「えっ?うん。青山フラワーマーケットに寄って帰ったけど。かおりん、見てたんだ。声かけてくれれば良かったのに」

 私に対して正直に言うってことは、やましいところは無いってことだよね。

 ……いや待って。そもそも花ちゃんは、私が真純くんのこと好きなのを知らないはずだから、まだわかんないぞ。

 そんな私の疑念をスルーするかのように、花ちゃんは嬉しそうに言葉を続けた。

「あ~そうそう!その時買った花がさ、かおりんのインスタと同じ花だったんだよね!運命感じちゃったよ!」

「そ、そうなんだ!それはびっくりだね」

 ……ごめん花ちゃん!本当は真純くんに聞いて知ってたけど。

 これ以上、花ちゃんを裏切りたくないから、もう核心に迫ろう!

「でさ、花ちゃん、その日は他にも運命を感じる出会いはなかった?」

「えっ?どういうこと?」

「帰り道に同級生と会ったりとかさ」

「うーん、誰にも会わなかったし、運命を感じるって言うなら、かおりんのインスタがいちばん運命を感じたよ!」

「あぁ~花ちゃーん!!」

 私は花ちゃんをギュッと抱きしめた。

「もう、かおりんはカワイイなぁ」

 花ちゃんは私の頭を優しくなでてくれた。


 なんか今日は花ちゃんのおかげで心が洗われたから、いつもの感じじゃなくて、素直なツイートをしよう。

「今日カワイイって言ってもらえた(ハート)ギュッと抱きしめちゃったよ!」

 ……でもこのツイート、受け取りようによっては匂わせになるかもなぁ。


 【匂わせポイントその9】本当は友達のことだけど、匂う人には匂うかも。


 事情を知らない真純くんは彼氏(架空)との話だって思う可能性が高いよね。

 でも今日は、花ちゃんにありがとうの気持ちを込めたツイートにしたかったんだ。ごめんね。


 翌朝、学校に行くと、真純くんが話しかけてきた。

「香織さん、カワイイって言ってもらえてよかったね」

「うん、今まで言われたこと無かったからさ」

「え~そんなにカワイイのに?」

「……えっ!?ちょっと、真純くん、今なんて?」

「うぅ~改まって言うのは、ちょっと恥ずかしいよぉ」

「ねぇ、ねぇ。なんて?」

「や、やめてよ~!」

 真純くんは顔を真っ赤にしながら友達のところへ逃げていった。

 もももももしかして真純くん、私のこと意識しはじめちゃってる?

「ちょっとちょっと!かおりん!真純くんのことからかっちゃダメだよ」

「からかってないよ。ツイッターの感想聞いただけだよ」

「感想聞いただけ?へぇ~。そうなんだ~」

 花ちゃんがなんかニヤニヤしている。

「ま、そっちは少し様子を見るとして……かおりんのツイッター見たよ!」

「ありがとう!」

「よかったね、かおりん。可愛いって言ってもらえて!」

 花ちゃんはとびっきりの笑顔で祝福してくれた。

 は、花ちゃ~ん!なんていい子なんだ!

「ついにかおりんも「愛おしい」って気持ちがわかっちゃったか~」

「えっ?花ちゃん「かおりんも」って……花ちゃん?」

「あはは~、ナイショだよ~」

 花ちゃんも笑いながら自分の席に逃げていった。

 もう花ちゃん!かわいいなぁ!


 友情度100%アップ!匂わせ失敗!


 【反省点】匂わせたら友情が深まることもある。


 なんか「探りを入れる」とか「ライバル出現」とか言ってた自分が恥ずかしいよ。

 真純くんのことも好きだけど、花ちゃんのことも、もっと好きになっちゃった。

 あとは今日の大収穫!真純くんが言ってくれた「カワイイ」をバッチリ脳内録画したから、何百回もリピート再生しようっと!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る