投稿その7

 青葉の季節。木漏れ日が眩しく差し込み、少し髪型を変えた私を照らした。その右手に提げた鞄の横を、爽やかな風が駆け抜けていく。

「ツバメさん、おはよう」

 私を追い越したツバメが、高い空へと消えていった。

 どこまでも青い空。通学路を歩く私。

「今日もいい日になりそう!」

 太陽に届きそうなほど、ぐっと両手を上げ、背筋を伸ばした。

 ――この先にキミがいる。そう思っただけで、いつもの道も輝きはじめ、足取りもスタッカートのように軽くなった。


「おはよう、みんな!」

 とびっきりの笑顔で教室に入った私は、大好きなクラスメイトのみんなと挨拶を交わした。そしていちばん大好きなあの人にも、想いを込めて挨拶した。

「真純くん、おはよう!……って、んん??」

 隣の席には、いつもと同じ笑顔で、優しくあいさつを返してくれる真純くんが……

「……いない」

 毎日私よりも先に来ている真純くんが、まだ来てない!!

「……お、遅れてるのかな?」

 少しだけ動揺したけど、頑張って乙女モードのまま、真純くんを待ち続けた。

 クラスメイトからは「なに変顔してんの?」って言われたけど、頑張った。

 ――結局、真純くんは来なかった。そのまま朝のホームルームが始まってしまった。

 先生の話によると、真純くんは部活の試合があって、今日は終日公欠なんだとさ。


 あー、もう!ヤメだ!やめやめ!乙女モード終了!

 せっかく笑いどころなしの「ガチラブ強化週間」が始まるはずだったのに!ターゲットの本人が来てないんじゃ意味ないよ~!

 とんだ一人芝居、英語で言うならスタンダップコメディだよ!(←ワンマンショーじゃない?)

 なんなの「スタッカートのように軽くなった」って。もう顔から火が出る~!恥ずかしい~!

 まったくもう、慣れないことなんてするもんじゃないね。こんな結果になるなら、朝早く起きて新しい髪型とかチャレンジしないで、ギリギリまで「朝ごはんジャーニー」を見ておくんだったよ!

 やっぱり私って、コメディ時空から逃れられないのかな?こんなに切実に「ラブストーリー」を欲しているのに!!もう「ラブコメ」は勘弁してよ……。


 家に帰ってから、そんな鬱屈した想いを「匂わせツイッター」にぶつけた。

 そのツイートはこんな感じ。

「あの人は試合で学校をお休みだったけど、勝ててよかった(ハート) #寂しかったけど #応援したよ」


 【匂わせポイントその7】遠くからずっと応援してた私って、リモート健気でしょアピール!


 おぉ!これはなかなかいいんじゃない。これを読んだ真純くんは「ボクも試合だったんだから応援して欲しかったな!」なんてジェラシーが爆発しちゃうかも!

 しかもしかも「ボクは……いつも香織さんのこと、応援してるんだからね!」なんて、さりげなくデレられちゃうかも!

 きゃー!そんなことになっちゃったら、私の存在をラブ時空に戻せる気がするよ!!

 これはもう明日も、乙女モード発動させちゃわないとだね~!!


 翌朝、この日も乙女モードで登校したんだけど、通学の描写はくどいから省略。

 で、教室についた私の席の隣には……、いる!今日は真純くん、学校に来てる!

 私は急いで真純くんのところに駆け寄った。

「ねぇ真純くん!部活どうだった?」(※すでに乙女モードのことは忘れている)

「えっ部活?……うん、盛り上がったよ」

「すごいね!さすが『武芸部』の部員だね!バッキバキのベッキベキに叩きのめしたの?」

「えっ……武芸部!?……えっと、香織さん、何か勘違いしてないかな」

 んん?真純くんって武芸部に所属してるんじゃないの?

「僕はね、『文芸部』の部員だよ」

「えっ……文芸部!?」

 ぶぶ文芸部?!ずっと武芸部だと思ってたよ!どうしよう!

「ふふ、武芸部か~。やっぱり香織さんって面白いね!」

 面白い!?しかも「やっぱり」って!もしかして私、真純くんの中で「おもしろ枠」の人なの!?

 いや、ちょっと待って。それ以外にも疑問があるんだけど……。

「真純くん、先生が昨日『試合』でお休みって言ってたんだけど……文芸部にも試合があるの?」

「えっ?『試合』じゃなくて『話し合い』だよ」

「へっ?!」

「部長の代理で『話し合い』のために九州まで行ってきたんだ。それでまる一日お休みになっちゃったんだよ。」

「そ、そうだったんだ……」

 へぇ~「はなしあい」と「しあい」だって。「はな」がどっか行っちゃったんだね~。あははー、これが本当の「はなれ離れ」だ。(上手くないよ)

 真純くんはまた、さっきの話を思い出したみたいで、ニコッと笑ってから私に言った。

「ふふっ、武芸部かぁ~」

「だよねぇ~。言われてみれば武芸部ってどんな部活だよ!って話だよね。私、勝手に『なんとか無双』みたいに刀とか振りまわして、敵をぶっ倒していく部活だと思ってたよ」

「あはは、それ面白そうだね!そんな部活があったら、そこを舞台にした小説が書けそうだよ」

「えっ?そう?」

「うん!アイデアありがとう。香織さん」

 えへへ~、褒められちゃった!!


 そういえば真純くん、昨日の夜の匂わせツイートは見てくれたのかな?

「ねぇ真純くん、今朝、私のツイッター見てくれた?」

「あ~、それがさ~、慣れない飛行機移動で疲れて、ギリギリまで寝ちゃって……」

「寝ちゃって…?」

「見てないんだ。ごめんね!!」

 ズコーッ!!

「しかも『きょうのわんこ』見てたら、さらにギリギリになっちゃって……」

 なんと!「めざまし派」でしたか!


 ジェラシー度0%!匂わせ失敗!


 【反省点】すれ違い多発の「乙女モード」は使用NG!


 公欠で会えなかった上に、ツイッターもスルー。さらに「ZIP!派」じゃなくて「めざまし派」。私が無理矢理キャラ変した呪いなのか、すれ違うにもほどがある。

 結局、翌日に「匂わせツイート」を見てくれたか確認してみたら「勝ててよかったね。香織さんは勝利の女神だね」だってさ。

 私は誰の勝利を願って、何に勝たせてあげたんだ?……まぁ「女神」って言われたからプラス1億ラブ!これでまだまだ戦えるぞ~!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る