投稿その6
夜、バスタブにたっぷり入ったお湯に浸かりながら、最近の私の行動を振り返ってみた。
(ちょっとガツガツ行き過ぎてたかな~。目の前で好きなところ言いまくったり、穴だらけの作戦立てたり……)
そんなことを考えているうちに、私って致命的なまでに“アレ”が足りてないってことに気が付いた。
あのですね、私にはですね……「甘酸っぱさ」が足りてないんですよ!!
そう!私の恋には甘酸っぱさが足りてないんだよ~。キュンキュンがひとつも無いんだよ~。
でもちょっと待って。……そもそも「甘酸っぱさ」ってなに?
酢豚みたいなもの?
なんか「甘酸っぱい」って、駄菓子とか飲み物のイメージだなぁ。
「よっちゃんイカ」は甘酸っぱいよね。
お母さんが飲んでる「はちみつ黒酢ダイエット」は……「酸っぱい」の方が強いかなぁ。
甘酸っぱい飲み物か~。「キレートレモン」?もっと酸っぱくなっちゃった。
あっ!これどう?「アセロラドリンク」!甘酸っぱいよね、ね!
いぇ~い!正解!!
ふぅ~スッキリした~。さ、お風呂あ~がろっと……。
……って!待った!今って「甘酸っぱい飲み物クイズ」の時間じゃなくて「甘酢っぱさとはなんぞや」を考える時間だよね?
もう、お風呂で考え事をしてると、どんどん話が逸れていっちゃうな~。これって「お風呂あるある」だよね~。
ということで今日は、真純くんがキュンキュンするような匂わせ写真を、インスタに上げちゃいます!
それから小一時間、必死に考えた末に自撮りした写真がこれ!
――大きな口を開けて笑っている写真。満面の笑みですね~。
ついでにメッセージも添えておこう。
「ありがとう(ハート)思いっきり笑えたよ!」
子供みたいに楽しそうに笑っている無邪気な私と、シンプルであっさりしてるけど想いがこもったメッセージ。
いやー、好感度アゲアゲでしょ、これ。
【匂わせポイントその6】彼への感謝ラブを匂わせつつ、笑顔でキュンキュンさせちゃうぞ!
これを見たら真純くんもグラっときちゃうでしょ。
どうなのどうなの?この恋人にしか見せないような屈託のない笑顔。
真純くん、ぜったい彼にジェラシっちゃうでしょ。(架空の彼だけど)
「だめだよ香織さん……その笑顔は、ボクだけに独り占めさせて。」なんてね。
キュン!
……って、私がキュンとしちゃったじゃないか!
妄想にまで入り込んでくるなんて、真純くんったら積極的なんだから!
さぁ~明日が楽しみだ!真純くん、待っててね!
翌朝、学校に行くと真純くんの方から話しかけてきた。
「香織さん、インスタ見たよ。めっちゃ笑ってたね」
「ありがと~。見てくれたんだ」
よっしゃ!よっしゃ!……って、この心の声がイカンのだよ。今日のテーマは「甘酸っぱさ」でしょ。おしとやかにいこう。
「香織さんがあんなに笑顔になるなんて、よっぽど面白いものを見たんだね」
「えっ?あぁ、えっと……そうだね」
しまった。私としては彼氏との楽しい会話で笑顔になったっていう想定なんだけど。あのメッセージじゃそこまで伝わらないか。確かに。うーん、どうしよう。
「もしかして、彼氏さんと面白い動画でも見たの?」
「えっと、そ、そうだよ。彼が『おもしろ動画』を送ってくれたんだ」
「へえ~、おもしろ動画かぁ。ボクも見たいな~」
ふぇ~そんなカワイイ顔で言われちゃったら、何でもいいから見せたくなっちゃうじゃない!
よし、急いで机の下でググってみよう。「おもしろ動画」「思わず笑う」で検索っと。おぉ~!なんか出たぞ。
「これこれ!これ見たの!『【衝撃動画】思わず笑ってしまう飛び込み』ってやつなんだけど……」
しまった!ダメダメ~!これはダメでしょ!お願い真純くん、興味を持たないで!
「すごい!面白そう!見せてもらってもいいかな?」
「ダ、ダメ……なわけなくて、いいよ。うぐ~~、もう!頼んだ!ポチッ!」
こうなったらネットの神様を信じるしかない!ネット神よ!真純くんをキュンキュンさせて!
……あー、おじさんが飛び込んでる。(私は死んだ表情をしている)。なんなの「おもしろ飛び込み」って。水着のおじさんばっかりでさ。あ、お尻打った。
甘酢っぱさのかけらも無いじゃないか!ネット神、お前はもう信じないぞ!
あれ?でも、この動画……あ、あれ……あは、あはは……
「ブハッ!アハハハ~」
おもしろー!やっば―!素で爆笑しちゃった!
「あはは。確かに面白いね!やっぱり彼氏さん、センスあるなぁ」
あぁ……また彼氏の評価が上がっちゃったよ。
しっかり終わりまで動画を見ちゃったところで、真純くんに聞いてみた。
「ねぇ今の私、インスタみたいに笑ってた?」
「うん。すっごくいい笑顔だったよ」
「……キュンとした?」
「うん。ボク高所恐怖症だから胃がキュンとしたよ!」
おい!私は動画の感想を聞いてるんじゃないぞ!
「動画じゃなくて、私の笑顔にはキュンとした?」
「うーん、キュンとした……っていうよりも」
「……いうよりも?」
「歯並びがいいなって思った」
真純くんはそう言って、私のすっごい近くにまで顔を寄せて、微笑んだ。
「うん、やっぱり白くていい歯並びだ」
「あ、ありがとう。」(キュン)
うぇ~!恥ずかしいよぉ~、真純くんまだ見てる~。もう私の負けでいいから~!
ジェラシー度0%!匂わせ失敗!
【反省点】私がキュンキュンしてどうすんだ。
いつの間にか勝ち負けに話がすり替わってたけど、私には甘酸っぱい恋なんて無理なのかな……。
でも真純くん、高所恐怖症だったんだね。今後のデートプランの参考にさせてもらおっと。
――それにしても、今回もまったくもって遺憾の意ですね。このままいくとこの恋物語は、私のギャグ物語のまま終わっちゃいますよ。あかんのあですね。(←こういうのがダメなの!)
明日は笑いどころゼロでいきますからね!ガチのラブストーリーを見せますよ!覚悟していてくださいね!
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