投稿その5

 いや~今週も長いな~。まだ木曜日かぁ。ってことは明日は金曜日で、あさっては土曜日だ。

 ――うん、仕掛けるなら今夜かな。

 だって学校でしか会えない真純くんに「週末匂わせ」のエサを撒くなら今夜しかないからね。


 それにしても真純くんって、お休みの日は何してるんだろう?

 ずっとラノベを読んでるのかな?そういえば友達とゲームの話をしてたこともあったなぁ。

 ま、まさか、朝から晩まで、私のインスタとかツイッターを読み漁っているとか?!

 もう!真純くん、本当に私のこと好きなんだから!!

 毎朝見てくれてるってだけでも嬉しいのに、朝から晩まで私のこと考えてもらえるなんて幸せだよ!

 真純くん好きだよ~!……もう、この溢れ出る想いを、今すぐツイッターに書き込んじゃえ!

 それを読んだ真純くんは、きっとこう言うよ。

「か、香織さん、ボクのこと好きなんですか?」

「そうだよ!そうだよ!そうなんだよ!さんざん匂わせてたのに気付いてなかったの!?」

「香織さ~ん!ごめんね~。ボクの鼻、詰まってたみた~い(ハート&嬉し泣き)」

 ――と、ここまで妄想したところで、急に我に返った。

 危ない危ない、リアルと妄想の境界線が曖昧になりかけてた。いや、一歩ぐらいヤバいラインを越えてたかな。

 そんなスムーズにいくわけないのにね。もし普通に言えてたら私の恋物語はとっくにエンディングを迎えてるよ。

 危うく「匂わせ」じゃなくて「激クサ」の直球で告白しちゃうところだったよ。


 うーん、なんか今日は妄想がはかどりすぎてるなぁ。ぜんぜん進展が無いからかな。

 ということで今夜はこんなツイートをしてみました。

「週末はイオンで服を買う予定。お揃いの買っちゃおうね(ハート)#休日おでかけ」


 【匂わせポイントその5】週末はイオンに来れば会えるよ!と「居場所匂わせ」。


 「イオンに来れば確実に会えるよ!」っていうGPSいらずの位置情報を発信しつつ「お揃いの」ってところで彼氏の存在を匂わせ!

 真純くんが焼きもち焼いて、急に私に会いたくなっても大丈夫!心も体も距離が近づく「一石二鳥」ならぬ「一イオン二真純」の奇跡のツイートかも。(上手いこと言ったつもりか?言えてないぞ)


 翌朝、金曜日。私は登校するなりすぐに真純くんに話しかけた。

「ツイッター更新したんだけど……」

「見たよ。香織さん、週末はイオンに行くんだね」

「そうなの!そうなの!」

「ボクも行こっかな~」

 く、食いついた!!エサにパクっと食いついた!!

「香織さんに会えるかもしれないね」

「うん、会えたらいいね」

 あーもう、真純くんったら、そんなに私に会いたいのか~。

 ……あれ?ちょっと待って。万が一真純くんに会えた時、変な服だったらイヤだな。やっぱり可愛い服を着ておきたいよね。

 ってことで、今日の放課後はイオンに寄って服を買わなければ!


 ――とまぁ、あれこれ作戦を練ったけど、結論から言うと、土曜日は真純くんに会えなかった。

 土曜の朝8時。昨日買ったばかりの爽やかなワンピースを着て、お母さんの「こんな朝っぱらからどこ行くの?」の声を背にイオンモールに向かった。

 その後、店内を徘徊すること12時間。開店の朝9時から閉店の夜9時までイオンモールの中にずっといたけど、真純くんには一秒も会えなかった。

 金曜の放課後にワンピを衝動買いしてお金を使いすぎちゃったせいで、財布の中身は空っぽだったから、何も買わずに食べずにもうひたすら、ずーっと歩いてたんだけど、真純くんには会えなかった。

 スマホの万歩計を見たら3万歩を超えてたよ。中国の奥地の小学生だってこんなに歩いてないよ。

 そのまま疲れて爆睡しちゃったんだけど、起きたら日曜の夜9時だった。もう!なんだったんだ、この週末は!


 週が変わって月曜日。登校するとすぐに真純くんに声をかけた。

「ねぇ真純くんさ、週末イオンに行った?」

「うん、行ったよ」

「えっ?行ったの!?」

 うそでしょ?本当に?あんなに長い時間いたのに……。

「行ったよ。香織さんがツイッターに『週末イオンに行く』って書いてたから、会えるかな~って思ってたんだけど」

 そ、そうなの!?気にしてくれてたんだ!

「で、で、で、でも、会えなかったよね。会えなかったよね?」

「さすがに日曜日は人が多いからね~」

「へっ?」

「日曜だったから、人が多くて見つけられなかったよ」

「に、日曜!?」

 ノー!!そうだった!日曜も「週末」だった!やらかした!完全に土曜に行くって伝わってると思ってた!……思い込みって怖いですね。

「でも彼氏さんとは一緒に買い物できたんでしょ」

「ま、まあね~」

「素敵な服は買えた?」

「うん。買えたよ。爽やかなワンピを……」

 うぅ~本当は真純くんに見てもらいたかったワンピなんだけど……。

「そっか。彼氏さんとお揃いのワンピースかぁ」

 へっ?お揃い?あー、そんなことも書いてたっけなぁ。今となってはどーでもいいけどー。

「そういう『カップルでお揃いの服を着る』のって、なんか言い方あったよね。えっと、なんだっけな……ペ、じゃなくて、ふ、ふ……」

 えっ?なになに?ぜんぜんわかんないんだけど……。

 真純くんは思い出したのか、ニコニコ顔になってこう言った。

「双子コーデだ!」

 ……いや、違うよ。

「彼氏さんすごいね。爽やかなワンピースも着こなせるおしゃれさんなんだね。ボクも着てみたい……じゃなかった、おしゃれさんになりたいな」


 ジェラシー度0%!匂わせ失敗!


 【反省点】週末イオンにいましたが?ずっと歩いてましたが?救ってもらっていいですか?


 でも私はめげません。だって爽やかワンピをインスタに上げたら、真純くんとの会話のきっかけになるから。

 貴重な週末を無駄にしちゃったけど、真純くんが爽やかワンピを着た姿を妄想できたので、お腹いっぱいです。ごちそうさまでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る