「あ、その顔、まさか聞かされてなかった系? ったく、めんどくせー……」


 そう愚痴り、陽鷺は頭を右手でわしゃわしゃと掻きむしる。

 ボサボサの髪の毛が、更にぐしゃぐしゃになったので、見栄えが一段と悪い。


「この際あれだ、取り敢えず話してやるよ……っと、まず風呂入れ」


 陽鷺は軽く私の頭を叩く(撫でると言った方が近いかな)と、私の部屋を出て行った。


 何ともいえない静寂が訪れた。



 =====



「ふえぇ……。癒される……」


 お風呂場の天井から、ちゃぷん、ちゃぷん、とややリズミカルな雫が落ちる。

 それは、私の掌に沈んでくる。


 ……不思議な感覚。


 生きること、生きていくこと全てが意味が無いって思ってたのに……。

 たった数時間しか経っていないのに、彼らの陽気さには呆れさせられる。

 

 そんな生き方が自然に思える。


 「ねーえ、兄さん、もうすぐ出てよ? 私入るんだから」


 えっ、もう!? もうちょっとゆっくり入らせて……ん?

 私が性同一障害だったら、妹ちゃんも一緒に入浴しても良いのでは……?

 まあそこまで追求すると怒られそうだし、仕方なく湯船から出ることにした。



 =====



 取り敢えずパジャマ姿になって、歯磨きして自室でゴロゴロしようと階段を静かに上がって、定位置の扉を開けてベッドに飛び込もうとしたら、学習机の上に封筒が置いてあった。

 ぱっと見、何か入ってるような分厚さがしたから、取り敢えず開封してみることに。


「お、居たか……って、ソレ、まさか!?」


 勢いよく開かれた扉と同時に、陽鷺の声が飛んできて、ついでに身体も飛んできた。

 手にしている封筒コレがどんなに重要なものかは知る由もなく、手の中からひったくられて、中身を隅から隅まで読まれてしまった……。


「あ、ちょっ……」


「オイオイ、マジかよ……」


 え? 何がマジなん?

 ちょっと見せて……。


「かーさんっ! イオ、受かったってさ!」


 陽鷺はドアを開けて1階へ叫ぶと、約2秒後に階段を母と妹ちゃんが駆け上がってきた。

 そして私を押しのけて、陽鷺から書類をひったくって2人でじっくり読んでいた……。

 

 よく分からない、複雑な視線で3人を眺めていると、いきなりお褒めの言葉が飛び交った。


「兄さん、入学試験に合格したの!? スゴイじゃん!」


「イオ、やっと本格的に暗殺教えて貰えるよ! これでやっと“実沢ミサワ”に顔見せられるわぁ……!」


「お前もやっと“ストームカード”貰えるな……。一般の中学校で登校拒否っても、アソコ殺し屋育成学園だったら近所の同級生とか、たっぷり入学するだろうよ」


 同時に3人が喋っているから、誰が何を言っているのかさっぱりわからない……。


「……ちょっと待った!」


 取り敢えず、静止して欲しかったから、声を上げてみた。

 そうすると、3人は動作を止めて、視線だけを私の方へと……。

 え? 私、なんか珍しいことでもした?

 そんでもって、3秒後には私の身体を舐め回すように見ていた。

 ……なんだか、よく解んないけど物珍しいのかな?


「え、なんか、喋り方、女っぽくない?」


「身も心も少女オトメになったとか? そいつは笑えるな」


 いや、喋り方に注目しただけとは……。


「ああ、そうだ、育成学園の事、説明してなかったわね」


 麻衣が掌を合わせて、丁寧に説明してくれた。

 ただ、聞き慣れない単語があったので、会話全文を載せると厄介なので、内容は以下の通り。


 ・殺し屋育成学園とは、この地域一帯に住んでいる中学生を対象に、この星地球に棲みつく異物を駆逐する職務に就かせるための訓練というもの。

 何故、この地域が選ばれたのかにはちゃんとした理由が。

 それは、この地域一帯森田区は殺し屋とか、暗殺とかに関わった人間が寄せ集めのなってるから。国が、直接、この狭い森田区に学校を建設した。学生の負担も考えて、遠い山奥とか、人目につかない谷とかではなく。

 ・駆逐する職務とは、いわば一般市民を異物から守るというもの。


“異物”については、学校側から説明があるらしい。

 今日はもう寝なさいと、麻衣に急かされ、今日のところは眠りに就いた。

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オカルトヲタクのJCが転生したらパラレルワールドで一風変わった学校に入学?! 朝陽うさぎ @NAKAHARATYUYA

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