なんやかんやで夕食の時間。


 鈴屋家のダイニングキッチンには、陽鷺ヒサギ、母、妹、そして私。

 父親となる人間は見当たらず、まだ帰宅はしていない雰囲気。


 食卓には至って普通のグラタンやら、クリームコロッケやら、ご飯とワカメやらお豆腐やらが入った味噌汁とか、特別変な料理とやらは出されていないようで意外性。


 ただ、結構クオリティーの高い料理出すね……。


 私以外は黙々と夕食を食べている。

 ……ヒサギはもう既に食べ終わり、何処から持ってきたのか物騒なペーパーナイフを回して遊んでいる。


 一口、グラタンをすくって口内に運ぶと、もしかしたら転生前の時に食べたグラタンより、もっと美味しい気がした。

 あ、でも、魔法で美味しくしてるからかも。


 小食な私でも、全部残さず食べ切れた…。意外。


「ごちそうさま」と告げ、席を外し、2階へ上がった。


 =====


 2階の廊下には左右に2つずつ扉。

 そのうちの左奥の扉を開けて、部屋の中に入り、ベッドに飛び込む。


 ここは、私だけの部屋。

 母親―――麻衣って名前らしい―――が、教えてくれた。


 部屋はそんなに広くなく、かと言って狭過ぎる訳ではない、学生にとっては丁度良い空間。

 南側にベランダがあって、パンジーとガーベラが咲き誇って、大きく成長したスイートピーが強い日差しを遮ってくれている。

 ベランダ近くに学習机とローラー付きの背もたれ椅子。

 意外にも机上は整理されていて、その隣の本棚が溢れ返っている。ジャンルは様々で、ファンタジーからミステリ小説、漫画シリーズのセットなど、実に高価そうな分厚い本が……(後で中身を見たところ、憲法が書かれていた)。

 ベッドのマットレスは真っ白なシーツに包まれて、掛け布団はフカフカの羽毛布団。少し高めに設置してあって、ベッドの下に物が入れられる仕組みになっている。


 意外に、シンプルな造り…。同じ中学生でもこんなに違うものなんかな……。


 そのままベッドに座る体制になると、机の脚元に何かが視界に入った。

 視力はそんなに良くないから、椅子をどかして見ると、何だか怪しげなタロットカードとヴィージャーボードが……。

 まあ、どっちもオカルトチックの分野に入るんだけど。

 結構ホコリ被ってたし、取り敢えず本棚の上に置いておくことにした。


 なんやかんや部屋の中を探してみたけど、好奇心を疼かせたのは、ミニチュア作成キット。

 どっちかっていうと、私はそんなに本は読まない。読むといえば、エッセイ集とか、詩集とか。写真集も見てるだけで面白い。

 その作成キットは、カフェテリアの一角を表現したもの。

 だけど、まだ椅子や出窓の部品が接着されていなくて、未完成品みたい。

 こんなの、作ってみたかったんだよね~。でも、案外、高かったりして……。

 じっくり眺めつつ、定位置に戻しておいた。


「よ。風呂、入れよ」


 急にドアが開いて、陽鷺が覗いてきた。


「うわッ、びっくりさせないでよ……」


「ん? 別に驚かせてないけど? これだからは……」


 え? 私、女子って設定なの?

 いや、ちょっと待ってよ、多重人格という可能性も……。


「……あ、ちなみに、お前、だかんな」


 ……は?

 はぁ!?

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