なんやかんやあって1時間後。

 陽はすっかり西へ西へと傾いていった。


 私の新しい母親となった、魔法が使えるらしい女性と、ちゃっちい小6の妹だが、存在感は圧倒的に兄姉以上の立場にある年下。

 今のところ、家族と判明している人間はこの2人。


 暫くボーッとソファに座っていると、突然、目の前が真っ暗になった。

 それとも、真っ黒?


 私は必死に抵抗し、両手を振り回して、脚をじたばたさせる。

 もう何やってんだろ……。


「お、何だよ。珍しく抵抗するんだな」


 今度は大人っぽい男性の声。いや……、変声期の同級生みたいな感じかな。

 母親が居るキッチンから、青年らしき者へ声が飛んでくる。


陽鷺ヒサギ、また記憶媒体メモリ落として帰って来たんだから手荒な真似はしないの!」


 陽鷺ヒサギ……?

 なーんか、聞いたことあるような、ないような……。


 どうやらアイマスクを付けられてたみたいで、外すと、まあ、それっぽいイケメンが……、じゃなくて、丸眼鏡に歯の矯正、それらに似合ってない白髪の、寝起きした直後のような爆発した髪型。


 背格好は中の中。私よりほんのちょっとだけ低いくらい。前髪は無造作に黒いヘアピンで留めていて、白髪なのでよく目立つ。

 服装は黒いシャツと、ボーダーと言っていいのか分かんないけど、黒と白の2色のカーディガン。


 まさか……、こんなのが身内?


 不安に駆られていると、陽鷺ヒサギとかいう自分のタイプじゃない男子に顔を覗かれ、


「俺、鈴屋スズヤ陽鷺。お前より一つ歳上だな。んで、お前は鈴屋依生スズヤイオ。確か……、12か13だっけ」


 ……あんたが一つ上なら、その歳から一つ引けば良い話でしょうが。

 こんなのがこれから自分の兄貴になるとは情けないような……。


 妹が、なんか知らんけどタブレットで作業しつつ、母に声を掛ける。


「ねえおかーさん、兄さんの入学っていつだっけ?」


 少し間が空いたけど、答えはすぐだった。


「4月の上旬じゃなかったー?」


 入学なんてどこもかしこもそうじゃない……。


「ねえ兄さん、少しは喋ったらどうなの? ずっとツッコミたそうな顔してんじゃん……。

 もしかして、性格まで忘れた?」


 ……なーんかイラッとするのは何故だろうね……。


 そこで、母様の一言。


「まあ、そのうち思い出すでしょ」


 …あんたら無責任すぎ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る