CHAIN_73 騎士道を歩む、傍若無人に振る舞う

 ツナグの活躍もあってその場にいた数多くのマインドイーターは全て消滅した。同時にエルマの献身により救出されたプレイヤーたちは二次被害を免れることができた。


 生き残った者たちはデータの残骸を見ながら一か所に集まっていく。


 ここで初めてツナグ、マリア、カイの三者が間近に対面した。


「救援感謝する。私はマリア。君は?」

「俺はツナグ」

「……聞いたことないな。有名なやつと思ってたが」


 カイは腕を組んでツナグのことを睨んでいる。


「君は高校生か?」マリアが問う。

「ええ、まあ。一年ですけど」

「後輩か。私は三年生だ。そこにいる柄の悪い男も同じく三年生。だからどうというわけではないが」

「高一ってことはシルバーライニングスかよ。ったく。どいつもこいつも……」


 カイはうんざりした表情でぼやいた。


 シルバーライニングス。GCCによって引き起こされた暗黒年に生まれた子供たちのことを指す俗称。


 才能に満ち溢れた者が頻出していることから常に注目されている世代でもある。


 ツナグ自身その俗称のことは知っていた。しかし事あるごとに期待通りの才能を発揮している者と比べられてきたのでそう言われるのはあまり好きではなかった。


「それならあの強さも納得できる。デント歴はどれくらいだ?」

「ええと……」


 少し遊んでいた小学校時代を振り返ってみても今と合わせてだいたい三ヶ月。


「数ヶ月くらい」


 その発言で周囲はざわついた。カイとマリアもさすがにそれはないと言わんばかりの呆れ顔で静かに首を横に振った。


「まあ、冗談はさておき本題に入ろう。私たちは今二つのグループに分かれている。私が率いる騎士道連盟。やつが率いる傍若無人連盟」


 マリアが視線を向けるとカイは口を開いた。


「要は一年、お前がどっちに付くかって話だよ」

「そういうことだ。もしこちらへ来てくれるなら心より歓迎しよう。その強さは頼りになるしみなも安心するだろう」


 そう言って彼女が振り返るとそこには騎士道連盟の面々がいた。彼らはツナグの入団を心待ちにしている様子。


「この女のところはやめておけ。雑巾のように利用されて捨てられるのが落ちだ。こっちに来いよ。バカみたいに細かいルールもない。ただ俺に背かなければあとは自由だ」


 アナーキーな考え方のカイに付く傍若無人連盟の面々もツナグの入団を熱望している様子だった。


「お兄さん、どうするんですか……?」


 そばまでやってきたエルマがその顔を覗き込む。


「うーん……」

「今ここで決める必要はないわ。とりあえずみんなをお城まで連れていきましょ」


 城にはコージが率いる小さなグループも待っている。まずはここにいる面子を安全圏へ連れていこうとするリンの考えにツナグも賛同した。


「その前にまずは安全な場所へ。ここにいるとまたやつらに出くわすかもしれない」


 ツナグの発言で周囲が再びざわついた。プレイヤーたちの中にふつふつとあの時の恐怖が湧いて甦る。もうあんな目にはあいたくないという思いが体の奥底から込み上げてきた。


「安全な場所。本当にそんな場所があるのか?」

「隣の街エリアに小さなお城が。そこなら防衛設備もあるし落ち着いて話し合いもできると思うんだけど」

「なるほどな。みなはどう思う?」


 マリアが仲間に問いかけると彼らは全員うなずいて賛成した。


「こちらは問題ない。同行しよう」

「こっちも問題ねえ。休息できる場所は必要だ」


 マリアに続いてカイとその仲間も同意した。


 その場にいる全員が意志を固めたところでツナグは大人数を率いてコージが待っているであろう街エリアの城へと向かった。


 §§§


 砂漠エリアから再び街エリアへ。長い坂道を上がると修道院のそばに小さなお城が見えた。決して完璧とは言えないが侵入者対策でその造りはしっかりしている。そう簡単に破壊されるような雰囲気ではない。


 閉じられた城門を何度も叩いていると遠くから物音がした。そのあと滑車の回る音とともに門がゆっくりと開かれた。


 その先で待っていたのはコージだった。


「とりあえず中へ」


 彼はそれだけ言ってツナグたちを中へ招いた。全員が入ったところで門が閉じられた。


「必ず戻ってくるとは思っていたが、まさかこんな大所帯だとは」


 歩きながら隣のツナグに話しかけるコージ。


「これでもだいぶ減ったほうだ。元はもっと多かった」

「そうか……。でもこれだけ生き残ってるならまだマシなほうさ。仲間を集めてる途中で全滅したグループもいくつか見かけたからな」

「……いったいあとどれだけ残ってるんだ」


 ツナグが呟く。それは生き残っているプレイヤーのことであり、また各地に蔓延っているマインドイーターのことでもあった。


「そういえば他のメンバーは?」

「みんな向こうの広間にいる」


 コージと一緒にいた他のメンバーは案内された先の広間にいた。全員が疲れた様子で床に座っている。


「みんな、ツナグが他のプレイヤーたちを連れてきた」


 コージたちが到着すると彼らはのそのそと立ち上がった。


 この場に集ったおよそ四十名のプレイヤー。その過半数をたった二人のプレイヤーが実質的に支配している。


「ここの代表者は?」と集団の中から前に出たマリア。

「……一応、俺がまとめ役だが」


 コージは確認のようにツナグを一瞥してそう答えた。


「私は貴志マリア。高校三年生。こちらの騎士団連盟の代表者だ」


 そう言ってマリアがうしろを見やると、カイが割って入ってきた。


「おい。勝手に全体の代表面すんなよ。俺たちは二つのグループに分かれている。俺の率いる傍若無人連盟とこいつのおままごと連盟だ」

「なんだと……?」マリアの眉間にしわが寄る。

「その名前のほうがお似合いだろ?」


 カイはマリアのことをとことん嫌っている様子でその話ぶりには容赦がない。


「二人とも。事情はだいたい分かった。とりあえず話し合いといこうじゃないか。それぞれの代表者として。だから相応しい振る舞いで頼むよ」


 この手の揉め事は慣れているのかコージは手綱を握ってその場を収めた。二人は渋々納得してその提案を受け入れた。


 決まれば早い。これからさっそく空いた別室で代表者会議に臨む。


 出席するのは無名の小グループをまとめるコージ。騎士道連盟のマリア。傍若無人連盟のカイ。そのどれにも属しないツナグと付き添いでエルマ。

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