CHAIN_74 代表者会議

 広間を通って別室へ向かう代表者たちの背中を他の人々は不安そうに見つめていた。


 その途中でリンから共振形態【レゾナンスフォーム】を解除すると告げられた。周囲に危険はないと判断したのだろう。


 扉をくぐるとそこは小さな礼拝堂だった。木製のテクスチャが貼られた長椅子が左右に並び中央奥には講壇とステンドグラスが。


「適当に座ってくれ」


 コージは言いながら自ら適当な場所に座った。マリアとカイは互いに距離を取って離れた場所に腰を下ろした。ツナグとエルマは隣り合わせ。


「親しみ深い雰囲気だ」


 日頃から教会に通っている、とでも言いたげにマリアは口もとを綻ばせた。


「……でもこの椅子、硬くて痛いですね」ツナグの耳もとで囁くエルマ。

「確かにな……」


 触覚や痛覚が敏感になっているせいか椅子が本物のように感じる。そしてこういう時に限って教会仕様の快適とは言いづらい椅子。


 名前からして座り慣れていそうなマリアも苦い顔をして何度も座り直していた。


「さて、まずは自己紹介から始めようか。俺の名前はなかコージ。成改せいかい高校の三年生だ」

「私は貴志きしマリア。聖乙女せいおとめ学院高校の同じく三年生だ」

百目鬼どうめきカイ。常西じょうさい高校三年」

「望美ツナグ。彩都高校の一年」

 ツナグは言ったあとに次はお前の番だとエルマを肘でつついた。

「あっ、僕は桑子くわこエルマ。小妻こづま中学校の二年生です」


 この中で唯一の中学生でさらに最年少。そのせいか少し居心地が悪そうだった。


 リンのほうはどうせ誰にも見えないからと自己紹介すらもやめて室内を漂っていた。


「これで一応挨拶は済ませたということで。年齢に開きはあるけどこの状況だ。遠慮はなしで頼む。そしてここからは代表者としての意見を」


 コージが次へ話題を移すと、


「そういうことならまず私からいかせてもらおう」マリアが口火を切った。

「ご存知の通り私は二分された内の一つ、騎士道連盟のリーダーだ。崇高な騎士の道徳模範をもとに協力してこの世界から抜けだすことを主としている」

「つまり秩序を重視したグループというわけか」

「その通りだ。あいつのところのように欲望剥きだしで好き勝手するグループではない」


 マリアから蔑むような眼差しを向けられてカイは鼻で笑った。


「ふんっ。この女のクソみてえな寄せ集めと違って、傍若無人連盟はとにかく俺に逆らわない限りは自由だ。何をやったっていい。いかにこの狂った状況を楽しめるか。それが最も重要なポイントだ」

「……なるほど。こっちは対照的に広義の自由を重視しているのか。だとしたら俺たちのグループは半々で中立ってことになるか」


 二つの極端なグループを前にコージは客観的に見つめ直した。


「てっきりそこの二人も君のグループと思っていたが、違うんだな」


 マリアがツナグたちのほうへ目をやった。


「俺とエルマはタッグチーム。今のところ二人だけだ」


 ツナグがそう答えた途端にマリアの目の色が変わった。それをカイは見逃さなかった。


「グループとしての方針は違えども目的は共通している。最終的にこの世界から脱することだ。状況を整理して、今持っている情報を共有したい」


 無理にグループを合併しようとしないコージのスタンス。いきなり不和になることを恐れてのことだった。


「それならまずあのモンスターについて知りたい。あれはいったいなんなんだ? どう考えてもこのために用意されたものではない」マリアは怪しむ。

「ログアウトができなくなった時期とやつらが現れた時期はほとんど被っている。関連性があるとみて間違いないだろう」コージは仮説を立てた。

「やつらにロストさせられたプレイヤーの状態は普通じゃない。まるで本当に死んでるみたいだ。ま、そのほうがゾクゾクするけどな。スリルがあって」カイは楽しげに話す。


 この中で唯一情報を持つツナグはここで話すべきか迷っていた。


「ツナグに任せるわ。人間の言葉に知らぬが仏っていうのもあるしね。感情に左右されて予想外の行動に出ないとも限らないわ」


 リンの言う通り伝えたところで動揺を煽る結果になるかもしれないし、そもそも信じてもらえないかもしれないとツナグは考えた。それでも知ることによってみんなの不安が少しでも解消されるならと思い、


「……あの化け物の名前はマインドイーターって言うらしいけど」


 きちんと伝えることにした。


「マインド……イーター……?」マリアが目を丸くした。

「おい、どうしてそんなこと知ってんだよ」カイは振り向いてツナグを見据えた。


「……運営っぽい人とコンタクトが取れてその時に色々と」

「ああっ! 解析のあとに一人でぶつぶつ喋ってたのはそういうことだったんですねっ」


 隣で納得したように声を上げたエルマ。やっぱりリンと喋っているところを目撃されていたようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る