CHAIN_72 第三勢力
しばらくして戻ってきたエルマ。
「もうこの際、恥ずかしいとか言ってられませんよね」
開口一番にそう語るその表情はとても晴々としていた。
その問題はツナグにとっても他人事ではなかった。排泄だけでなく水分補給や栄養補給も自分でできないので現実世界の体が心配になった。
「俺の体どうなってるんだろうな……」
「確認しに行きたいところだけど私もここから出られないしね」
体の中から聞こえてくるリンの声。どことなく悔しそうな調子。
「……とにかく今は進むしかないか」
それを考えても仕方がないとツナグはすっきりしたエルマとともに再び他のプレイヤーを探しにいった。
リンのエコーを頼りにいくつもの砂丘を越えてようやく人影が見えてきた。さらに近づくとその規模が分かってくる。軽く数えて二十人以上はいるだろうか。
そして彼らは危惧していた化け物マインドイーターと交戦していた。
「ちょっと行ってくる。ここで待ってろ」
「せめてこれだけでも。速さの付与 《スピードエンチャント》」
「助かる」
わずかな時間の能力上昇効果。それを背に受けてツナグは戦いに身を投じた。
所々で砂が舞い上がって敵味方が分からなくなりそうな混戦模様。そこへ差し込むように現れた鎖の使い手は化け物たちを次から次へと
「――鉄鎖の投槍 《チェーンジャベリン》」
放たれた高速の鉄鎖。生きているかのように宙を泳ぐそれはプレイヤーを確実に避けてマインドイーターだけを一挙に貫き通す。
その様に他のプレイヤーたちは困惑。新たな敵が現れたのかと一瞬警戒した。
ツナグは手を振り払って鎖を一気に引き戻す。手の内に返ると同時に跳んで、
「鉄鎖の拳 《チェーンブロー》」
瞬時に形成した鎖の拳で近くの敵を弾き飛ばした。
「あ、あんたは……」
「助けにきた」
ツナグは恐怖で腰が抜けた男に手を差し伸べる。
「あ、ありがとう。助かったよ」
手を引っ張ってやると男がよろよろと立ち上がった。
「痛みはあるか?」
「引っかかれたところがまだ痛むけど大丈夫だ。俺のことなんかよりもあの二人を頼む」
男の視線の先にはとりわけ目立った二人のプレイヤーが。一人は剣を片手に西洋式の鎧を身に纏う女。もう一人は両手に漆黒の拳銃を持ち黒衣に身を包んだ男。
劣勢の中で唯一彼らだけが対等に渡り合っている。
「彼らは?」
「
周囲を見渡せばすでに数多くのプレイヤーがデータの残骸となっていた。よく見れば助けた男の足にもブロックノイズによるテクスチャの乱れが現れている。
「そうはさせねえよ」
ツナグは手を握りしめて再び戦地にその身を投げた。
「――くっ。しつこいな」
両刃の剣で応戦しているマリア。何度斬っても向かってきて終わりが見えない。
「さっさとくたばっちまえば楽になるぜ」
付近で同様に戦っているカイは辛辣にそう返した。
「ふんっ。その言葉、そっくりそのままお前に返すぞ」
と言ったそばから弾丸が放たれてマリアの頬をかすめた。
「おっと悪い。手が滑った」
「貴様……! 本当に性根も腐りきってるな」
「お前が消えれば残ったやつらは全員俺に付く。元々は個人戦だしルールの範囲内だろ」
「この状況でまだそんなことを……ッ!」
自分本位なカイに苛立つマリア。共に戦いながらも二人は対立関係にある。
そんな時に突として現れた第三の勢力。
「――鉄鎖の投槍 《チェーンジャベリン》」
空を這う鎖の蛇。その鋭い牙がマインドイーターのはらわたを食い破り、
「鎖の雁字搦め 《チェーンバインド》」
螺旋状に巻きついてきつく縛り上げる。
「爆ぜろッ」
データ体に食い込んだ鎖が限界以上に締め上げられて勢いよく破裂した。血飛沫のように飛び散るテクスチャとデータの破片。
あれだけ苦労していた化け物がいともたやすく倒されるその様にマリアとカイは内心衝撃を受けた。
「誰だ? トッププレイヤーか?」歓迎とは程遠いカイの表情。
「救援か! 助かる!」反対にそれを良しとして喜ぶマリア。
ツナグは二人の間を駆け抜けてマインドイーターのもとへ。周りが目を見張るような動きで片づけていく。それだけでなく窮地に追い込まれたプレイヤーを救出し、そのあと鎖で安全な戦線外へ放り投げていた。
「こ、怖かった。本当にありがとう……!」
「今から向こうへ飛ばす。ちょっと痛いかもしんないけど我慢して」
助けた子に鎖を巻きつけるとできるだけ優しく低空で放り投げた。その先にはエルマがいて誰かが放り投げられるたびに駆けつけては彼らの面倒を見ているようだった。
「なんだ。危ないから隠れてろって言ったのに」
それに気づいたツナグは心配半分安心半分の気持ちになった。でもこれで戦いに専念できると再び前を向いて迫りくる敵に立ち向かっていった。
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