CHAIN_39 大将シングルス -1-
ログインすると最終戦の舞台となるバトルフィールドが表示された。
二十二世紀になっても根深く残っている環境問題の一つ。産業廃棄物の山、通称スクラップマウンテン。東南アジアやアフリカを中心に改善の見込みがあったが、GCCにより全ての活動計画が頓挫した。
世界の現状をまじまじと見せつけるかのようなそのスクラップマウンテンが今回の戦場となる。
哀愁を帯びた夕焼けを背景にして第一ラウンドが今始まった。
二人とも一歩も動かずに静かに武器を構える。
ツナグは鎖を。
そしてトランは刀を。
彼のアビリティは『シグナルソード』。刀の属性を切り替えたり攻撃を柔軟に受けたりそれを送り返したりと臨機応変な対応ができる近接戦闘型。
「伝導の切替 《チャンネルコンバージョン》」
トランは刀を振るった。それは足もとの廃油を火種に燃え上がる炎に触れて属性が切り替わった。炎を纏った刀がモクモクと黒煙を上げる。
「――鉄鎖の投槍 《チェーンジャベリン》」
先に動いたのはツナグだった。投槍のように放った貫通力のある高速の鉄鎖。
「――ッ。伝導の受け刀 《シグナルレシーバー》」
わずかに眉を動かしたトラン。とっさに炎刀で上手く受け流して踏み込み、消えた。
「――くッ!」
速い。瞬時に間合いを詰められてその炎の刃がツナグの横腹を貫いた。とっさに取った回避行動のおかげで傷は浅い。
「鉄鎖の拳 《チェーンブロー》」
出し惜しみはしない。拳に巻いた鉄鎖をカウンターの要領で相手に打ちつける。
「伝導の受け刀 《シグナルレシーバー》」
トランは炎刀で受けてうしろへ吹っ飛ばされた。スクラップの山に衝突する直前で体勢を整えて着地した。
「――チッ」とトランは舌打ち。本来なら急所を抉る一撃だったはずだ、と。
それを見てツナグは驚いた。リンがいなくても少しは戦うことができている自分に。
もちろんリンがいなければ全力は発揮できない。が、自分自身も地道に成長しているのだと嬉しく思った。
だがしかし相手は都大会を飛び越えて関東地区レベルの実力者。これが彼の全力などという甘い話があるはずもない。
「伝導の跳躍 《シグナルスキップ》」
トランは炎刀を下から斬り上げた。ただそれだけに見えたが、
「――なッ」
突如として眼前に現れた炎の斬撃がツナグの体を斬って通り抜けた。
それは速いという域を超えている。それこそ空間を跳躍しているような。録画戦でも見たことがないスキルだった。
「やばいッ」
トランが同じ動作で炎刀を何度も振るう。ツナグは鎖を使ってガラクタの山から山へと移動。その間にも時間差で斬撃が飛んでくる。
「くッ……」
直線的な移動は読まれている。空間に仕掛けられる斬撃の罠にかかってそのたびに体力ゲージが減らされていく。
「そんなに強いくせになんでわざわざ人を落とすような真似をッ!」
「楽しいからに決まっているだろう。他に何がある」
くだらないことを聞くなと言わんばかりにトランは冷笑を浮かべた。
「だったら、なおさら許せない……ッ!」
「俺の理想はお前のような生意気なやつらを残らず屈服させること。愚民どもは勝手に服従するからな」
「愚民どもってそれはお前の仲間も含まれるのか?」
積み上がったゴミのうしろから顔を出すツナグ。
「当たり前だろう。あいつらは圧政政治の練習台。同時に将来への根回しにも使える便利なネズミだ」
政治家の息子とは思えない発言にツナグは言葉を失った。
「……こんなやつに」
苦しめられた人たちのことを考えると不憫でならない。自分も被害にあった内の一人だが他とは比べ物にならない。
終わらせないと、この負の連鎖を。
その決意を胸にツナグは手を握りしめて相手に挑む。
「鎖の機関銃 《チェーンマシンガン》」
リコルから着想を得たそれは両手から鎖を連続で撃ちだす技。射出直後に切り離すことで矢尻のような先端を弾丸のように活用できる。
「伝導の受け刀 《シグナルレシーバー》」
避けるリスクを取るべきではないと判断したのかトランはその場で受け流した。その動きはまず現実世界では再現できない。映画スターのアクションのよう。
ツナグは移動して接近しながら鎖の機関銃を撃ち続ける。少なくともその間のトランは弾丸の対処に追われて伝導の跳躍を使ってこない。
いけると勘が告げた。だからツナグはここで勝負に出た。
「くらえッ! 鉄鎖の拳 《チェーンブロー》」
飛び上がって相手の目の前へ。鎖の拳を振り上げる。
「――伝導の返し刀 《トランスミッター》」
その斬り返しは見えていたが想像以上に速かった。
「今までの礼だ」
刀で受けた攻撃を蓄積して一度に送り返す。おそらくそれがトランの真骨頂。
「――ッ!」
刹那に空いた手から鎖を放出して横方向へ逃げたが想定よりも瞬発力が足りなかった。
「ぐはッ……」
ほとんど直撃に近い。ツナグの体力ゲージは緑色から一気に黄色の警告域へ。
ツナグ自身も強くはなっている。本来直撃だったはず攻撃を避けたのがその証左。けれど経験の差が歴然としていた。
§§§
「……望美ツナグ。君がこんなところで終わるはずがない」
ヒサメはツナグの試合にのめり込んでいた。こんなもの邪魔だとサングラスを外して直にモニターを見つめている。
「……ツナグ」
幼馴染みが必死に戦っている姿を見てアイサは悲しむ。できることなら今すぐあそこに駆けつけて助けてあげたい。子供の頃のように。
昔から弱いくせにいじめられている子がいればすぐに飛んでいって結局は泣きながら帰ってくる。そんなツナグをいつも助けてきた。だから今回も泣いて帰ってきたら優しく受け止めてあげようという、そういう思いがアイサにはあった。
§§§
「実につまらん。所詮こんなものか」
「……勝負はまだついてないだろ」
「ついたも同然だろう」
トランのその言葉が示す通りツナグの体力ゲージは危険域の赤色になっていた。
対してトランの体力ゲージはまだ安全域の緑色。だがラウンド開始時から確実に減ってきている。それはツナグなりに必死の勢いで食らいついた結果だった。
「次のラウンドも取って終わりだ、一年坊主。言っておくがこの俺にたてついた代償はでかいぞ」
「……なんだと」
「お前をぶっ潰して他のやつらも二度と家から出られないようにしてやる」
「そうはさせるかよ……!」
とは言うもののあと一発でも攻撃を受ければ致命的。制限時間も残り少ない。
万事休す。ツナグが最後の賭けに出ようとした、その時だった。
「――ただいまっ!」
聞き慣れた声が頭に響いた。
「……おせえよ」
「これでも急いだんだから褒めてよねっ!」
「で、首尾は?」
「あとはいつでも実行できるわ」
「よくやった」
暗闇に光が差した気がした。
「えっへん! もっと褒めてくれてもいいのよ……ってツナグ、こてんぱんにやられてるじゃないっ!」と現状をすぐに把握した電脳の妖精。
「うるせえな。フルパワーでいくぞ」
「フ、フルパワーってツナグ正気なのっ!? そんなことしたらきっと……」
「やってくれ。時間がない」
「……上手くやってみる」
リンは通常形態から共振形態【レゾナンスフォーム】へ急速転換。
息を吐いてまぶたを閉じた一瞬の間に光り輝く景色を見た。宇宙に点在する星々が鎖で繋がっていくような、そんな不思議で美しい景色だった。
次にまぶたを開けた時、世界は違って見えた。
さあ、反撃の狼煙が上がる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます