CHAIN_38 副将シングルス -3-

「速の凝縮 《スピードチャージ》」


 加速して遠くを走るケイタへと一直線。


「念力の 《サイコ》」

「力の凝縮 《パワーチャージ》」


 予測したタイミングが合わずケイタは激しく殴られた。


「――ぐッ」


 地面に転がってすぐに起き上がり低木の影に隠れる。さきほどの不意打ちは二度と通用しない。それは本人がよく分かっている。ただ今はタイミングが計れる遮蔽物がほしい。


「隠れても無駄なんだよッ! 能無しがァッ! 速の凝縮 《スピードチャージ》」

「言わなくたってそれは僕自身が一番よく分かってるさァッ!」


 ケイタは影から姿を現した。


「力の 《パワー》」

「念力の 《サイコ》」


 無能と周りから罵られてもできる努力を続けて。やめろと周りにそそのかされても好きだからと返した。


 そんな彼に努力の女神は微笑んだ。


「震動 《ショック》」


 わずかにケイタの処理速度が上回り、最適の射程でスキルが決まった。


「――ぐあッッッッッ!」


 体力ゲージを削って弾き飛ばされるエルキ。


 勝てる。それを見てケイタは次の動作へ踏み込んだ。


「念力の誘導 《サイコムーヴ》」


 近くにある大きな低木の一部を念動力でちぎり取って勢いよく放り投げる。その先には今まさに起き上がろうとしているエルキがいた。


「――智の凝縮 《マインドチャージ》」


 だがしかし低木のオブジェクトが不自然に目の前で止まった。


「バカな。そんなスキル、僕のデータには……」

「そりゃないだろうよ。初めて見せるんだから」


 エルキは喋りながらゆっくりと立ち上がった。


「この状態の俺は超能力を得る。つまりあんたと同じことができるようになるんだよ」


 とっておきの隠し球。次期部長の名は伊達じゃなかった。エルキは紫色に妖しく光るその手を前に向けて、


「同じ力同士なら才能の差が物を言うッ!」


 近くにある全てのオブジェクトを持ち上げて荒々しく放り投げた。


「くッ……!」


 ケイタは次々と向かってくるオブジェクトに当たらないよう走りながら、


「念力の緊縛 《サイコバインド》」


 無理と判断したものはスキルで停止させてなんとか回避行動に努める。


 形勢は不利に戻った。だからなんだ、とケイタは心の内で言う。


「掴むんだ……」


 この手に勝利を。手にしてみんなのもとへ持ち帰るんだ、と。


「速の凝縮 《スピードチャージ》」

「念力の緊縛 《サイコバインド》。……なッ!?」


 エルキは接近したように見せかけるフェイントを入れた。わざとタイミングをずらされたことでケイタの予測が狂う。


「智の凝縮 《マインドチャージ》」

「ぐあッ……」


 自分がしたように念動力で縛り上げられるケイタ。


「調子に乗るのもここまで。あとはくたばるまで休んでな」


 エルキは縛る力を徐々に強めていく。それに伴ってケイタの体力ゲージもジリジリと減少していく。


「く、くそッ……」


 抜けだす術がなく何もできないままゲージは黄色から赤色の危険域に到達した。


「それじゃ。力の凝縮 《パワーチャージ》」


 解放された瞬間に赤く光る拳を腹部に打ちつけられた。


「かはあッッッッッ……!」


 終わる。終わってしまう。嫌だ。まだ戦える。負けたくない。どうする。どうすればよかった。みんなは。許されない。許してくれ。弱い、この僕を。どうか。


 一瞬にしてケイタの中で様々な思いが駆け巡った。


 ゴングが鳴ってモニターとバトルフィールド上に勝者が表示される。


 二ラウンド先取により勝ったのは無千高校の米辺エルキ。


 これで二ポイント対二ポイント。決着は最終戦に持ち越された。


 §§§


「……すまない。みんな……」


 部長は抜け殻のようになっていた。謝るその姿は見ていて非常に痛々しい。


「……勝ちたかった……あいつらだけには……」


 震えた声。誰よりも勝ちたかったはずの相手に敗北を喫して全身の力が抜けていく。とうとう崩れ落ちて床に両膝をついた。


「……何もできなかった……!」


 血の滲んだ拳を床に叩きつけた。俯いたその顔は見えなくとも、滴ってできた涙の跡が全てを物語っている。


 その様子を物笑いの種にしている者たちが向こう側にいた。


 気鬱な彩都高校デント部。その誰もが沈黙を守る中、ツナグが口を開いた。


「俺が部長の……みんなの戦いが無駄じゃなかったってこと、証明してみせますよ」

「……ツナグ君。でも相手はあの……」と顔を上げた部長の顔には生気がない。

「司馬トランだかトランシーバーだか、そんなややこしい名前のやつなんかに負けるわけないじゃないですか」


 ツナグは見栄を張っておどけてみせた。


 みんな司馬トランの強さを録画で見ているから知っている。だから半信半疑の目でツナグのことを見つめている。


 まだリンは帰ってきていないし、講じた策が上手くいっているかどうかも分からない。


 でもここで引き下がる選択肢はない。ツナグは敵の大将が待つ壇上へと進んだ。


 §§§


「いよいよ、彼が来る」


 観客席でヒサメは前のめりになった。待ちに待ったその男の登場に気分が高揚する。


「……ツナグ」


 隣のアイサは落ち着かない様子でモニター越しにツナグを見つめていた。


 §§§


「……一年坊主か」


 威圧感のあるトランは見下しながら呟く。


「文句あるのか?」


 ツナグは怖気付かずにそう言い返した。


「つまらない試合になりそうだ」

「だといいな」


 お互い一歩も譲らずにそのままDIVEへ入って電脳空間に接続した。

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