CHAIN_23 副将シングルス -2-

「なんだそれ、冗談か?」


 何も起こらないことを鼻で笑って逃げ切ったダイスケ。木陰に落ち着いて苦無を取り出したが、


「バレバレだっての」

「えっ」


 呆気にとられたその顔に固めた拳が深く入る。


「ぶうッ!」


 殴り飛ばされたダイスケ。いったい何が起こっているのか理解できないがまずは退避に専念。


「ここならやつも……」


 と次に隠れた場所もあっさりと見つかってしまった。


「そ、そんな。どうしぶあッ!」

「甘いんだよ、逃げ方が」


 ダイナはボクサーのように何発も拳を叩き込む。スキルを使っていないただの連続攻撃だがダイスケの体力ゲージは着実に減っていく。


「人差し指の狙い 《インデックスフィンガーエイム》」


 再びダイスケに人差し指を向けたダイナ。


「……分かったぞ。そのスキルが俺を追跡してるんだな」


「ああ。この指はお前を一定時間ロックオン状態にする」


 ダイナはためらいなくスキルの効果を相手に喋った。


 彼の持つ『フィンガーフリップ』は自身の手に付与された力で戦うアビリティ。


「自分からスキルのことを喋るとはさてはバカだな」

「そのバカでも勝てる相手ってこった」

「こいつ……ッ!」


 煽り返されて苛立つダイスケに、


「跳馬の掌 《バウンスハンド》」


 ダイナは掌底を喰らわせた。


「ううッ!」


 腹部にヒットして大きく跳ね飛ばされたダイスケはにやりと笑った。


「……へへ、ありがとよ。わざわざ遠くまで運んでくれて。スキルの効果が切れるまで逃げ果せれば俺の勝ちだ」


 そう言って逃げようとしたが、


「な、なにッ!?」


 体がゴムのように弾性を得て思うように動けない。歩くたびに足が勝手に大きく跳ね上がる。オブジェクトに手を触れればその手が大きく反発する。


「ゴムになった気分はどうだ?」と笑みを浮かべながら目の前に現れたダイナにダイスケはとうとう怒りが隠せなくなった。

「こんの一年がああああああああああああああッ!」

「煽り返されて短気になったら負けっすよ、先輩」


 ダイナは相手の足を踏んで拳の連打を浴びせる。文字通りサンドバッグ状態になったダイスケは自由が利かずただひたすらに殴られるしかない。


「このッ、このッ、やッ、ろッ、ろうッ、がッ、あッ、あッ、あッ」

「フィニッシュだ。鉄拳制裁 《アイアンフィスト》」


 半歩下がってダイナは固めた拳を相手に打ちつけた。


「ぐえああああああああああああああああああッ!」


 体力ゲージが減少してゼロへ。弾かれたダイスケはゴムボールのように木々に地面にステージ上を跳ね回った。


「――しゃあッ!」


 第二ラウンドの勝者はダイナ。これで三戦目へ持ち越しになった。


 形勢逆転。あれだけ馬鹿にしていた出刃具高校の面々はもう後がないことを思い出して強い緊張状態に包まれた。


 それとは反対に緊張状態から解放された彩都高校側は次のラウンドに期待感を抱いた。


 §§§


 第三ラウンド開始。


「人差し指の狙い 《インデックスフィンガーエイム》」


 開始早々にロックオンスキルを使うダイナ。


「そうくると思ったよ」


 人差し指から逃れることはもう諦めたのかダイスケは両手を前に交差した。


「苦無分身 《クナイクローン》」


 指の間に計八本の苦無が同時に出現する。


「苦無乱舞 《クナイパペット》」


 ダイスケは両手から苦無を放ってスッと後方へ跳んだ。操りの糸が波のようにふわりと浮き上がって宙を伝う。


「踊り明かせ」


 その合図で全ての苦無が無作為に暴れ始めた。規則性のない遠隔攻撃が一斉にダイナへと襲いかかる。


「うっとうしいんだよ!」


 ダイナは相手の攻撃圏内スレスレを斜めに走り抜けて、


「跳馬の掌 《バウンスハンド》」


 目に入った木のオブジェクトにスキルを使用。その直後に勢いよく両足で蹴ると弾性を得た木は弓のように大きくしなり、弾けた。


「なんだとッ!?」


 弓矢のように放たれたダイナを目で追うが追いつかない。なぜなら視認した次の瞬間には同じ方法でどこかへ跳び移っているからだ。


「――鉄拳制裁 《アイアンフィスト》」

「速いッ!」


 気づけば懐へ潜り込んでいた。


「ぐはあッ……!」


 下から突き上げるように放たれたアッパーカットはダイスケを宙へ打ち上げた。


「からの……」


 すぐさま見上げたダイナは右手の中指を内側に丸めて左手の親指で押さえた。それは子供がよくするデコピンの構えによく似ていた。


 落ちてきたダイスケを捉え、


「――中指の衝撃 《ミドルフィンガーインパクト》」


 弾かれた中指は閃光とともに砲撃に匹敵する衝撃を放った。


「がはッ……」


 必要最低限の痛覚機能と言っても痛いものは痛い。その威力によって段階ごとに変わる痛覚レベルはこの時高い値を示していた。


 だがしかし大技のあとでもまだダイスケの体力ゲージは残っていた。


「まだやれる……ッ!」


 ダイスケは立ち上がったがその足は小刻みに震えていた。


「現実世界の痛みはこんなもんじゃないぜ」


 痛みを忘れがちなデントプレイヤーにとってそれを思い起こさせる瞬間はまさに恐怖であり、ただのゲームではないということを認識させたい運営の思惑通りになっていた。


「う、うるせえ!」


 そう吠えるダイスケの攻撃にはためらいが顕著に現れていた。


「じゃあ続きいくぜ」


 そこからの戦いは立場の入れ替わった第一ラウンドを想起させるような一方的な流れとなった。


 ただ中指を構えるだけで、


「――ッ!」


 ビクッとするダイスケを体力ゲージがゼロになるまでひたすら殴り続けるダイナ。


 その行為は同じことを何度も繰り返してプログラムのバグを探す作業、デバッグによく似ていた。

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