CHAIN_22 副将シングルス -1-

 両名、DIVEに接続して電脳空間へログイン。


 四戦目。シングルス。第一ラウンド開始。


 バトルフィールドはジャングル風。熱帯植物が辺りを埋め尽くしており視界が悪い。モニター越しの観客たちもこれには不満顔。


「――っしゃあ」とダイナは頬を叩いて気合を入れた。

「悪いけど勝たせてもらうよ」


 一方でダイスケはいきなり木々の中に身を隠した。


「おい! 逃げるなよ!」


 かかってこいと言わんばかりに戦闘態勢だったダイナは思わず気が緩んだ。


「――ッ」


 けれど次の瞬間にはその緩んだ気がきつく結び直された。


「外したか」


 ダイナの足もとに苦無が刺さっている。


 ダイスケのアビリティは苦無を使って戦う『クナイクグツ』。


「……動け」


 そっと指を動かすダイスケ。その直後、刺さった苦無が独りでに動いて飛び跳ねた。


「――なにッ!?」


 尖った先端はダイナの額をかすめる。それで終わりじゃない。さらに方向転換して執拗に狙ってきた。意志を持ったかのようなその動きにダイナは驚きを隠せない。


「……思い出せ、ここは」


 ここは現実世界じゃないと自分に言い聞かせるダイナ。デントだけでなく電脳空間自体にも不慣れだった彼は現実と電脳の境目がまだ曖昧だった。


「しぶといな」


 持ち前の勘だけで直撃を回避するダイナにダイスケは苦無の数を増やして対応した。


「うがッ。こんの、やろうッ!」


 徐々に増えていく苦無はこれで四つ。それぞれが生きているかのように動き回ってダイナの体力ゲージを削っていく。


「姿を見せやがれッ!」


 出てくるはずもない。これが多田ダイスケの戦闘スタイルなのだ。


「どうやら天は俺の味方らしい」


 ジャングルのような環境は身を隠すのに打ってつけ。二戦続けて出刃具高校に地形的有利が働いていた。


「く、くそがあッ……!」


 ダイナはその場でジタバタするばかりで反撃することもできずになぶられていた。


「おしまいっと」


 そしてとうとうダイナの体力ゲージはゼロに。


 第一ラウンドはダイスケの完勝であっさりと終わった。


 §§§


「あちゃあ、マズいなこれ」

「ダイナ君には荷が重かったか……」


 レイトと部長の表情は硬い。リコルは苛立っているのか貧乏ゆすりが止まらない。


「大丈夫かな」

「大丈夫だよ、きっと」


 心配そうなコムギに声をかけるツナグ。負けず嫌いなダイナがこのままやられっぱなしで終わるはずがないと思っていた。


 §§§


 インターバル後に始まった第二ラウンド。序盤からリプレイでも見ているかのような展開に。余裕の笑みを浮かべるダイスケに押されっぱなしのダイナ。


「どこにいやがるッ!?」


 ひたすらに動き回って相手を探すその様は明らかに素人で会場の笑いを誘った。観客の一部や出刃具高校の面々は薄ら笑いを浮かべている。


 だがダイナもこのままでは終わらない。


「……糸?」


 不意に光の反射で細い糸が見えた。それは全ての苦無に付いていてどこかへと繋がっている。試しに手刀で切ってみると今まで動き回っていた苦無がストンと地面に落ちた。


「気づかれたか。けどもう遅い」


 ダイスケは新しい苦無を補充した。


「そういうからくりか」


 ダイナは落ち着いて苦無の動きを見極める。それらは直線的な動きしかできず方向転換の際に一時停止していた。


「おらァッ!」


 手刀で一つ一つ着実に糸を断っていく。糸を引っ張れば相手の居場所を突き止めることができるかもしれないと考えて試したが、あまりに細くプツンと切れてしまった。


「そんなことをやったって無駄だよ。現実の世界と違っていくらでも補充できるんだからね」とどこからともなく声がした。

「うるせえッ!」


 ダイナは苦無を拾って放り投げた。その行動の無意味さにダイスケはどこかで笑った。


「……たった一度でもやつのツラを拝めれば」


 そう呟くダイナには勝算があった。そのためにはどうしても相手を視認しなければならない。それが今の大きな問題。


「……よし。一か八か」


 正々堂々と戦うのをやめたダイナは苦無を拾い自らも木々の中へ。


「……消えた?」と木陰から様子をうかがうダイスケ。


 急に静かになるバトルフィールド。近くからは小川のせせらぎが。遠くからはプレイヤーには一切干渉しない立体映像の動物たちの鳴き声が聞こえる。


「――ッ!」


 その中に唐突に投げ込まれた人工の音。全ての苦無が一斉に振り向いた。


「なんだ、ただのお遊びか」


 水溜りに転がっていたのは自身の苦無。少々敏感になっていたダイスケは胸を撫で下ろした。相手が出てこないというのならこちらも出ない。そうして時間切れになれば自分の勝ち。焦る必要はないと思っていた。


 それは大きな誤算だった。


「――鉄拳制裁 《アイアンフィスト》」

「なにッ!?」


 急に声がして振り向いたらそこにはダイナがいた。


「ぐふうッ!」


 顔面に叩きつけられたその右ストレートは勢い止まらずダイスケごと木々をなぎ倒していく。


「おらァァァァァッ!」


 振り切って吹っ飛ばされたダイスケは地面を転がり泥水をかぶった。


「ど、どうして俺の居場所が……」

「お前も苦無も敏感すぎたな。ちょっとおどかしたくらいで同じようにビビるからよ。おかげでどこにいるか丸わかり」

「……くッ」


 ダイスケは眉間にしわを寄せた。


 苦無に包囲されている時は気づかずとも一旦離れてみれば一目瞭然。傀儡となった苦無は操り手とリンクしているため、とっさの時に同じような反応を示してしまう。


「だからどうした。また隠れてしまえばこっちのものだ。二度目は通用しない」


 立ち上がって再び隠れようとするダイスケに、


「そうはさせねえよ。人差し指の狙い 《インデックスフィンガーエイム》」


 ダイナは人差し指を向けた。

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