CHAIN_17 先鋒シングルス -1-

 試合は三ラウンド制で、二ラウンド先取したほうが勝ち。ラウンド毎の制限時間は十分。勝った場合はチームに一ポイント付与されて、最終的に多くのポイントを手に入れたチームが勝ち上がる。


 チームの流れを決める重要な先鋒を任されたツナグ。最初は勝っても負けても楽しめればいいと始めたが、部の未来がかかっているとなると話は変わってくる。みんなのためになんとしても勝たないと。


 そんな使命感に駆られたツナグは大きく深呼吸して目を開けた。


 バトルフィールドは公式戦仕様。ドーム状の広いステージにランダムに選択されたオブジェクトが設置される。それらは岩石や武具のようなもの、それこそ森や川などステージに直接影響を与えるものも含まれていた。


 しかし今回は採掘場に似たシンプルなバトルフィールドだった。


「ツナグ! いつでもいけるわよ!」


 リンは共振形態【レゾナンスフォーム】へと移行。ツナグの思考と感覚が急速に研ぎ澄まされていく。


 戦うためだけに脳がオーバークロックするような。それ以外の不必要な人間的機能が制限されていくような。そんな不思議な感覚。


「いくぞ」と一言。ツナグは飛びだした。


 向こうで構えたハイルのアビリティは『ソード&シールド』。その名の通り剣と盾を使う近接戦闘特化型。それはツナグが子供の頃憧れた正統派の戦闘スタイル。剣と魔法の世界の主人公のようで当時は眩しく見えていた。


 対してツナグのアビリティは『リンクチェーン』。矢尻のような突起が付いた鎖で戦う中距離・遠距離型。


「どんなアビリティが出てくると思ったら鎖かよ! 傑作だなこりゃ!」


 ハイルは馬鹿にした顔で向かってきた鎖を弾く。


「どんなアビリティでも関係ないだろ」

「関係あるさ。見た目の悪い能力なんて決まって脇役なんだよ」


 昔はかなり嫌いで外れだと思っていたその最適性能力。でもリンのおかげで可能性を見いだせた。伴ってどんどん好きになってきた。


 だから馬鹿にされるのは我慢ならない。


「証明してやる。こんな能力でも主役になれるってことを」


 ツナグは相手に向かって一直線。


「おいおい、俺に近接戦闘を仕掛けるだと? バカなのかッ!」


 自分の得意距離までわざわざ来るとはまさに格好の獲物。ハイルは大技を放って一気に終わらせるつもりでいた。


「じゃあな!」


 薙ぎの一閃。


「――なッ」


 だがしかし突如目の前でツナグが消えた。


「こっちだ、バーカ」


 と背後から声。振り向いた時にはすでに鎖で固めた大きな拳が迫っていた。


「鉄鎖の拳 《チェーンブロー》」


 振り抜かれたその拳はハイルの顔面を捉え、遠くへ弾き飛ばす。


「……ぐはッ!」


 壁に衝突してそのままずり落ちたハイル。その顔は「いったい何が起こったんだ」と困惑している。


 ツナグは攻撃の直前で両手から地面に向けて鎖を放出。バネのように跳ねた勢いで宙に舞って回転しながらハイルの背後に着地。これが消えたトリックである。


 ツナグは岩のオブジェクトを鎖で掴んで放り投げた。逃げ場のない壁越しのハイルにクリーンヒット。ハイルは次々と迫る岩を盾で防ぐが完全にジリ貧状態。身動きが取れず当たるたびにどんどん体力ゲージが減っていく。


「こんの、野郎があああッ!」


 頭に血が上ったハイルは一直線にツナグのもとへ。飛来する岩をどうにか避けながら接近を試みるが、


「……かはッ」

「――鉄鎖の投槍 《チェーンジャベリン》」


 投槍のような速さで一本の真っ直ぐな鎖がハイルの急所を貫いた。大きな岩ばかりに目を囚われていて気づいていなかったのだ。


「終わりだ」


 ツナグはすかさず追撃の鎖を飛ばして命中させる。その流れで腕に巻きつけて振り回した。攻勢止まず壁や地面に叩きつける。


 全ての攻撃を直に受けたハイルの体力ゲージはとうとうマイナス側へ振り切れた。

「よしっ!」と喜ぶツナグ。

「ありえねえ……」と呆然のハイル。


 ここで早くも一ラウンド目が終了。次もツナグが勝てば試合に勝利。負ければ三ラウンド目にもつれこむ。


 §§§


「よくやった! ツナグ君!」


 モニターで戦いを見ていた部長が喜びのあまり身を乗りだした。


「へえ、やるじゃん」とリコル。

「あれえ、また強くなってない?」

「すごい、です」


 レイトとコムギは目を丸くしている。


「そうでなくっちゃな。つまらねえよ」


 ダイナは腕を組んで見守っていた。

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