CHAIN_16 シルバーライニングス
地区予選は全部で二十四ブロック。一ブロックにつき八つの高校がしのぎを削り、そのブロックで勝ち残った二校のみが本選へ進出となる。
「おや、君は」
仕事で別の予選会場を訪れていた良川ナツキはたまたま氷天架ヒサメに遭遇した。
「お久しぶりです。良川プロ」
「全日本選手権以来だね。元気にしていたかい?」
「はい」
「最近ますます活躍しているそうじゃないか」
「良川プロのほうこそ。最近ゴールドランクに昇格されたとニュースで拝見しました。おめでとうございます」
「ははは、そんなにかしこまらなくても。でもまあ、ありがとう。君に追い越されないようにこれからも頑張るよ」
プロの中にも世界共通のランク分けがある。始まりがブロンズ、次にシルバー、そしてゴールド。殿堂入りともなるとプラチナのランクになるが、これは名誉称号としての側面が強いため、純粋な実力と実績だけならゴールドが最上位の証となる。
「いえ、良川プロを追い越そうだなんて」
「君には十分その資質があるよ。なにしろ暗黒年生まれのシルバーライニングスなんだからね」
「……そんなの迷信ですよ」
GCCによって引き起こされた暗黒の一年。その年に生まれた子供たちはどんな困難や逆境にも希望が残されているという英語のことわざ『Every cloud has a silver lining』から取って『シルバーライニングス《Silver Linings》』と呼ばれた。
この年の子供たちは才能に溢れた者が多いとみな口にする。事実デント業界のプロが注目する若手はそのほとんどがシルバーライニングスだった。
「僕はそんなものに自惚れず日々邁進していくつもりです」
「それがたぶん君の強さの裏付けなのかな。……っと、邪魔したね。これから試合なんだろう?」
「はい。ですけど僕は特別顧問という立ち位置なので直接試合に出ることは……」
「そうなのかい? てっきり部活のほうもブイブイ言わせてると思ってたよ」
「全国に行くまでは指導に回ってほしいという顧問の先生の意向で」
「わざわざ君をレベルの低い相手と戦わせるくらいなら、いっそのこと指導役になってもらったほうがいいってことかな。空いた枠で他の子の経験値も上げることができるだろうし。戦略としては間違ってないね」
「決してレベルが低いとは思いませんが、そうですね。戦略的には正しい判断かと」
「でも暇だろう? 分かるよ、その気持ち」
「いえ。様々な同年代プレイヤーの対戦を見ることができるのでそれは勉強になりますし良い刺激にもなります」
「真面目だねえ。ああ、そういえば。同年代プレイヤーで思い出したけど、この前のトークイベントで面白い子に会ったよ。その子は君を倒した、と言っていた」
その瞬間、ヒサメの表情がガラリと変わった。
「それはいつですか!? 場所は!? 男でしたか!?」
詰め寄ってくるヒサメに驚くナツキ。
「おうおう、落ち着いてくれ。急にどうしたんだい」
「す、すみません。とにかくそのプレイヤーについて詳しく教えてもらえませんか?」
「そうだねえ。私もそこまではっきり覚えているというわけではないんだ。しいて言うならば活発そうな……子」
ナツキの表情が瞬間的に厳しくなった。記憶の中の人物に何か引っ掛かりを覚えているようだった。
「どうされましたか?」
「いや、なんでもない。記憶を手繰り寄せてみたが何も上がってこなかったよ。私が覚えているのは君と同年代で活発そうな男の子ってくらいかな。悪いね」
「いえ、貴重な情報ありがとうございます」
「彼のことがそんなに気になるのかい?」
「ええ、まあ。本当に実在するなら彼は僕の……生涯の好敵手になりえるかもしれない」
その目は真剣だった。思わず年上のナツキですら一瞬臆してしまうほどに。
「もしかしたらこの地区予選に出ているかもしれないね」
「その可能性は僕も考えていました」
「モニタールームに行ってみるといい。二十四ブロックの全試合がリアルタイムで見られるはずだ」
「はい。そうします」
「ではまた。失礼したね」
「いえ。またお会いできる日を楽しみにしています」
ヒサメは一礼してナツキの横を通り過ぎた。
「――鎖の使い手。君はいったい誰なんだ……!」
§§§
大会用に設置された特別仕様のDIVEがずらりと並ぶ。ここは対戦アリーナ。その周りには観客席が用意されており、巨大モニター越しに白熱の戦いを観戦することができる。
プライバシーやセキュリティー上の関係で試合はリアルタイムで配信されることはなく後日ダイジェスト版の録画で配信されることになっている。そのため生観戦チケットの倍率は高い。
これから始まるのは六対六の団体戦。この時初めて選手たちが顔を合わせた。
彩都高校対出刃具高校。
「どこかと思えば暴力事件のところじゃねえか」
「ああ、あの」
「楽勝っすね」
「バカ。聞こえるって」
こちらまではっきりと聞こえている。ダイナとリコルは今にも飛びだしそうな迫力でそれを部長とレイトが必死に抑えていた。
§§§
係員によって二名の選手が壇上のDIVEへと案内された。対戦オーダー通りまずは先鋒の試合。よってツナグともう一人の選手が壇上に立った。
モニター上に互いの名前が表示される。
一年、望美ツナグ。二年、
両者見合ってDIVEの中に入っていく。ツナグは見逃さなかった。ハイルが「楽勝」と言わんばかりに鼻で笑っていたことを。
「……一発ぶちかましてやる」
「ええ! やってやるわ!」
いつも以上に張りきるリンを尻目にツナグは電脳空間へログインした。
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