CHAIN_15 地区予選大会の始まり

 とうとうこの時やってきた。地区予選大会の日。デント部一行は彩都高校代表として大会会場に訪れていた。


 会場に入る前に持ち物検査と金属探知機によるボディーチェックがおこなわれていた。列をなした高校生たちが順番にゲートを通り抜けていく。


「……リン。お前のアレって大丈夫なのか……?」と小声で囁いたツナグ。


 リンの本体は指輪。外せない以上、このまま突っ込めば金属探知機に反応してしまうだろう。


「金属に反応する機械のこと? それなら任せて」


 言ったあとで指輪がじわりじわりとぼやけ始めた。


「よし! いい感じでしょ」


 そしてとうとう完全に消失した。


「おい、どうやったんだよ」

「いわゆる光学迷彩ってやつ?」

「すげえじゃん。どうして今までやらなかったんだよ」

「別に何も言われなかったし」


 ああ、そうだった。こいつは人間学習中の人工知能だった。人の気持ちを推し量るのは無理がある、とツナグはふいに思い出した。


「でも探知機自体は騙せないだろ?」

「そっちは電磁誘導に虚偽のレスポンスを返せば問題ないわ」


 リンが何を言っているのかよく分からなかったが、ツナグは納得してそのままゲートへと向かった。


 持ち物を置いて緊張しながら金属探知機の門をくぐったが、何も反応しなかった。薬指の指輪も消えたままだ。


「言ったでしょ。大丈夫だって」


 リンはツナグの目の前で誇らしげに舞った。


「あのなあ、すごいのはお前じゃなくて俺の爺ちゃんだからな」

「ミツルもすごいし私もすごいでいいじゃない!」


 リンは頬を大きく膨らませて言い返す。


「はいはい、分かったよ。お前も爺ちゃんもすごい」


 でも今回は助かったのでそれ以上は言わなかった。


「――あのさ、お前って何のために創られたんだ? いい加減そろそろ思い出しただろ」


 人間の能力を飛躍させるだけでなく光学迷彩に機械を騙す機能まで付属している人工知能の指輪。祖父が何のためにこんなものを創りだしたのかずっと疑問だった。


「うーん。それが覚えてないのよ」

「メモリーは全部検索したのか?」

「うん。あと残っているのはフラグメント化したデータが保存されてるインベントリーくらい。もしかしたら強制起動の時に破損したのかも」

「変な表現だけどもし思い出したら教えてくれよな」

「分かった!」


 ツナグは最近リンといることが当たり前になってきていた。つまりはその存在自体に何の疑問も覚えなくなってきていたということ。よくよく考えてみると奇妙な話だ。


「おーい! ツナグ君!」


 遠くで部長が呼んでいる。その周りにはすでに検査を終えた他の部員たちがいた。


「今行きます!」と返してツナグは走っていった。


 §§§


「じゃあ確認するよ。僕らは予選第二ブロック。初戦の相手は出刃具でばぐ高校」


 選手控室。部長によって初戦前のブリーフィングが始まった。


「対戦方式はシングルスフォーのダブルスワン。シングルス二回にダブルスを挟んでシングルス二回だね。登録したオーダーはまず先鋒にツナグ君」

「よっしゃ! 頑張ります!」

「最初から流れをこっちに持っていきたい。だから期待しているよ」

「次鋒にリコル君。いつも通りの活躍を頼む」

「ふん。当たり前だ」

「中堅のダブルスには僕とコムギ君が出る。たぶん編成としてはベストかなって」

「精一杯頑張ります」

「副将枠にはダイナ君。しかと練習の成果を見せてほしい」

「ああ」

「そして今回は大将としてレイト君に出てもらう。しんがりは任せたよ」

「うーっす」


 これで初戦のオーダーが出揃った。


「出刃具高校とは戦ったことがあるけど、なかなか手強いところだよ。顧問の先生が経験者でしっかりとトレーニングされている」

「そういえばここって顧問はいないんですか?」


 とのツナグの質問に部長は顔をしかめた。


「……一応、名義貸しだけどいるよ。今年度いっぱいだけどね」

「ええ!?」


 その事実にツナグを含む一同は驚愕した。リコルやレイトですら知らされていなかったのか目を見開いている。


「本当にごめん。今まで黙っていて。一度廃部になったデント部を復活させるにあたって先生たちに掛け合ってみたんだけどことごとく断られて。唯一引き受けてくれたその先生も今年度で退職するんだ。もちろん部の存続のために全身全霊で後任の先生を探すつもりだよ」


 心底申し訳なさそうにそう語る部長のケイタ。


 控室の雰囲気が悪くなりそうな中で口火を切ったのは、


「はは、悪くねえ」


 意外にもダイナだった。


「はなから尻に火がついてるほうが燃えるってもんだ」


 逆境に昂る彼に他の部員も続く。


「せいぜいそのまま燃え尽きないようにな。ま、私が活躍すれば顧問なんて向こうからすり寄ってくる」とリコル。

「……今はまだ体験入部ですけど、全力を尽くします」

「まあ、なんとなくそんな気はしてたんだよねえ。でもそのおかげでこうして復活できたわけだし」


 コムギもレイトも。誰も責めようとはしない。


「部長。このまま勝ち進んでいけばきっとみんなの見る目も変わるはずです。だから頑張りましょう!」

「……ツナグ君、みんな。ありがとう。正直色々と諦めかけていたからね」


 沈んでいた部長の生気が戻り、


「でも今回はなんだかいけそうな気がするよ。僕自身みんなの頑張りに恥じないように誠心誠意取り組んで上を目指す。だから、ついてきてくれないか」


 そう問いかけるより前に答えは明白だった。

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