CHAIN_14 二人目の新入部員

 部室にやつがやってきた。扉を蹴破るくらいの勢いで。


「約束通り来てやったぞ」


 ふんぞりかえるダイナに部室の警戒度が二段階ほど上がった。


「ええと、君は?」

「部長。彼がその勧誘した生徒で、今日から入部ということに」


 戸惑う部長に横から説明するツナグ。


「ああ、そうだったんだ。僕は部長の須磨ケイタ。君は?」

「滝本ダイナ」


 ダイナは気怠そうに返事して空いている椅子に座った。隣のリコルはすぐ見て分かるほどに苛立っている。


「で、何すればいい?」

「そ、そうだね。これからみんなでデントセンターに行って模擬戦をやるつもりだよ。大会も近いからね。でもその前にダイナ君には入部届のほうを記入してもらいたいな」

「はあ。面倒くせえ」


 言葉通りの顔でタブレット端末を受け取って記入していくダイナ。


「面倒くさいならやめちまえ」

「ああ? なんだお前?」


 恐れていたことが早々に起こってしまった。リコルとダイナの間に亀裂が生じる。


「雑魚が一匹入部しようがしまいが一緒だろ」

「喧嘩売ってんのか」

「まあまあまあ。二人とも。お願いだから落ち着いて」


 部長は二人の間に入って開始寸前の内部紛争を穏便に収束させた。もう一人の新入部員のコムギは静かに怯えていた。


「コホン。では今日の模擬戦のオーダーを決めるよ。僕は初心者のコムギ君と。リコル君は」

「部長。こいつとやらせろ」とリコルが割り込んだ。

「格の違いってやつを叩き込んでやる」

「俺とやるってか。あとでピーピー泣いても知らねえからな」

「じゃ、じゃあリコル君はダイナ君と。ツナグ君はレイト君と」


 模擬戦のオーダーが決まったところでデント部はみんなで最寄りのデントセンターへと向かった。


 §§§


 到着早々ダイナが驚くべき一言を放った。


「なんだこれ」

「何ってDIVEだけど……」と答えるツナグ。

「なんだよそれ」

「デントをするための機械だけど。見たことないか?」


 何か嫌な予感がする。それはすぐに的中した。


「そもそもデントってなんだよ」


 その言葉に周囲の空気が固まった。


「え、でも、デントが強いって聞いたから勧誘したんだけど」

「俺は強いが、デントが強いなんて言った覚えは一度もねえぞ」

「…………」


 記憶を思い返す。確かにダイナは一度もそんなことを言っていない。じゃあどこからこの勘違いは始まった。……おそらく最初から。アイサとの会話辺りから。


 やらかした。いや、元々の目的が新入部員の勧誘だったから正確にはやらかしていないが、でもやらかした。


「なんだ、何も知らねえのか」とリコルは鼻で笑った。

「大丈夫だよ。何も知らなくても。今日からでも始められるから」


 部長はすぐさまフォローを入れてダイナにその場でデントの説明を始めた。


 §§§


「……要は電脳空間でやる格闘技ってわけか。なら楽勝だな」

「みくびってると後悔するぞ」

「だといいな」


 すでにリコルとダイナは臨戦態勢。


 部長の指示で全員がDIVEに接続して連携をとり今日の模擬戦が始まった。


 §§§


「だから言っただろ。みくびるなって」


 全ての模擬戦が終了して現実世界に戻ってきたデント部。その中でリコルが楽しげに勝ち誇った顔をしている。


「……くそがッ」


 ダイナは悔しげに手を握りしめる。


 ずぶの素人には荷が重かったのか全戦全敗。そのどれもが一方的な試合。


 強いと自負していたダイナにとっては屈辱的なことだった。当たり前だが現実世界と仮想世界は似ているようで勝手が違うのだ。


「録画見させてもらったけど、初めてにしては筋が良かったよ」

「皮肉のつもりか?」

「いやいや、褒めてるんだよ。僕が初めたころはもっと酷かったし。本当に弱かった」


 部長は自分自身に大きなため息をついた。


「……次は絶対負けねえ」


 良くも悪くもリコルとの出会いはダイナの闘志に火をつけたようだ。


「いつでもかかってこい。三下」


 とリコルは煽りに煽った。完勝したことがよほど心地良かったと見える。


 ツナグはというとこちらも完勝。リンは戦闘データを多く取得できて喜んでいた。

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