CHAIN_13 男の決闘
授業が終わって約束通り校門前で待っていると、制服姿のダイナが現れた。すでに頭の包帯は外している。
会うなり「ついてこい」と言って先導するダイナについていくツナグ。
てっきり最寄りのデントセンターに行くものだと考えていたが、すでに通り過ぎてなお歩き続けている。ツナグは不思議に思いつつも黙ってついていった。
§§§
結局到着したのはあの河川敷だった。
「おい、デントで勝負するんじゃないのかよ」
「はあ? なんだそれ。勝負って言ったら一対一の殴り合いに決まってんだろ」
ちょっとどころじゃないレベルで話が違う。デント部入部をかけての勝負だからデントで決着をつけると早とちりしていた。思い違いだったようだ。
「ちょっと待てよ。本気か?」
「やるのか、やらないのか。どっちだ」
「や、やるに決まってる」とここはそう言うしかない。
二人は河川敷に下って向かい合った。
「リン、頼むぞ」
想定とは違ったがもうやるしかない。リンも臨戦モードに入った。
ふっと息を吐いてダイナはかかってきた。ツナグは先読みの力でかわしていく。
見えた。ここで右拳を下から。
ツナグの拳は相手の頬にヒット。
「少しはやるじゃねえか」
ダイナは軽くのけぞって唾を吐いた。
それからもツナグは攻撃をかわしつつ的確に拳を入れていく。
分かっていたことだが電脳空間上と違ってリンのサポートにも制限が多い。こちらでは感覚的なものが研ぎ澄まされるだけで身体能力が上がるわけではない。だから相手の攻撃を神がかり的に避けることはできても、その拳は平均的な男子高校生の一打。
それでも攻勢を強めてダイナを少しずつ追い詰めていくツナグ。
だがしかし途中で大きく距離を取って、
「リン。サポートを解除してくれ」
「ええ! ちょっと、どういうつもり!?」
「何か、違う気がするんだ。だから俺自身の力で戦ってみたい」
「どうなっても知らないわよ?」
「分かってる」
リンは言われた通り共振形態【レゾナンスフォーム】を解除した。
「ありがとう」と言ってツナグは再びダイナと相まみえた。
結論から言うと、このあとめちゃくちゃボコボコにされた。
§§§
「……お前、急に弱くなったな」
その言葉が示す通り、ツナグは何度も殴られていた。そのたびに倒れては立ち上がり倒れては立ち上がりを繰り返していた。やっぱりリンのサポートを解除しなければ良かったとアザだらけの顔で軽い後悔。
「……まだまだ……」
息が上がっているのはツナグだけではない。ダイナもまたかなり消耗している。
「……俺の勝ちだ。いい加減諦めろ……」
「……まだ終わってねえ……」
ツナグは背を向けようとするダイナの足にしがみついて転倒させた。ダイナは馬乗りになって左右の拳をツナグの顔面に打ちつける。
意識が飛びそうな瞬間が立て続けに起こる。雲の上にいるようなふわふわとした感覚でリンの声も遠くなっていく。
だが男の勝負。ツナグもここは譲れない。
「――らァッ!」
とっさに放った一撃がダイナの顎へ綺麗に入った。ダイナは呻き声を上げて横向きに倒れた。
「……へへ、どうだ……」
ツナグは膝を押さえて立ち上がるものの急に力が抜けて大の字に倒れた。
「……もう起き上がる気力もねえ……」
「……なら最後に立った俺の勝ちだな……」
「……それでいいわもう……」
ダイナはとうとう投げやり気味に負けを認めた。
ツナグの頭の中は真っ白だった。勝った、という感情よりも先に今は体中の痛みが気になって仕方がない。
自分の呼吸。羽虫の音色。風にそよぐ草花の音がよく聞こえる。
リンが心配そうに覗き込んできたが、「大丈夫だ」とデコピンをしてやった。
§§§
お互いある程度体力が回復した頃、ダイナはゆっくりと立ち上がった。
「約束は守る。入部すればいいんだろ」
「じゃあ、明日の放課後、デント部の部室に」
ツナグは倒れたままで返答。ダイナは「ああ」と一言だけ呟いて先に帰っていった。
「ツナグ、家に帰らないの?」
「しばらくこのままで」
もう少しだけこの疲労感を味わっていたい。
目を閉じて半分眠りかけのところにある時突然衝撃が起こった。自然に起こった何かではない。誰かに頬を叩かれている。
一瞬リンかと思ったがそれはありえないし本人が「ツナグ、早く起きて!」と急かしている。何事かとゆっくり目を開けると、
「なんだ生きてるのかよ」
そこには見知った顔があった。
「……リコル、先輩。何してるんですかこんなところで」
「はあ? それはこっちの台詞だろ。何やってんだお前こそ」
しゃがみ込んだ姿勢いわゆる不良座りで眉をへの字に折り曲げるリコル。
違いない。状況的にはツナグのほうがおかしいことになっている。
「ええと、新入部員の勧誘のためにサシの勝負で決着をつけました」
「は?」
ツナグ自身も分かっている。意味不明な説明だと。
「とにかく勝負に勝って新入部員がもう一人増えます」
「……ふうん。そう」
あまり興味なさそう。そもそも大会にフルメンバーで出場したいと強く主張しているのはツナグだけなのでこの反応もうなずける。
「とりあえずそろそろ帰らないと」
すでに日も暮れて辺りは薄暗くなってきている。叩き起こされなければそのまま眠っていたかもしれない。
半身を起こしてみたが思っていたよりも体が重い。
リコルは立ち上がって、
「手、貸せ」と一言。
ツナグが手を差しだすと思いっきり引っ張られた。その勢いで立ち上がるが思わずキスしそうになるほどの距離に。
「バカか。近えんだよ」
やったのは自分なのにうろたえるリコル。ツナグはそれを少しかわいいと思った。
「意外とかわいいところもあるんですね」
「うるせえ! とっとと帰れ!」
怒ったリコルはツナグの胸を拳で小突いて踵を返した。
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