CHAIN_18 先鋒シングルス -2-
九十秒のインターバルを挟んで二ラウンド目が始まった。
「……もう油断しねえ」
ハイルの目つきが変わった。ここからはさきほどのように簡単にはいかないだろう。
「歩兵の構え 《インファントリーガード》」
剣を鞘に。盾を前に。防御に特化した態勢でハイルは走りだした。
ツナグは近くのオブジェクトを手当たり次第に放り投げるが、どうにかスレスレで回避されて接近を許した。
「一の段 《フェイズファースト》」
振りかぶった盾によるバッシュアタック。ツナグは鎖を束ねて受ける。
「二の段 《フェイズセカンド》」
素早く腰の鞘から引き抜いた剣で死角からの突き。
「ぐッ……」
それはツナグの脇腹を捉えた。
「くそッ」と言って反撃しようとするがハイルはスッと後方へ下がり、
「歩兵の構え 《インファントリーガード》」
さきほどの構えに戻った。
「一の段 《フェイズファースト》」
隙を見計らっての再撃。ツナグは再びそれを受けるが結果はもう分かっている。
「二の段 《フェイズセカンド》」
死角からの突き。今度はかすった程度だったがそれでも体力ゲージは減らされる。
ハイルは同じように後方へ距離を取ってまた構える。
間違いようもない。これは歩兵の基本戦術ヒット&アウェイ。
「正直この戦法は派手じゃないから使いたくなかったが、そうも言っていられない」
能力の見た目を気にしていたハイルがそれを捨てて堅実な手段に打ってでた。
一撃一撃はさした脅威ではないが、塵も積もれば山となる。制限時間が切れた時、体力ゲージの減り幅が大きいほうが負けとなるので防戦一方では勝ち筋がない。
「ツナグ! 攻めないと!」
「分かってる!」
何か打つ手は。思考の処理速度を上げる。その間もハイルは攻撃の手を緩めない。
「歩兵の構え 《インファントリーガード》」
距離を取っても歩兵の構えで詰められる。
「一の段 《フェイズファースト》」
盾をかすめ取ろうとしても一の段で弾かれる。
「二の段 《フェイズセカンド》」
剣は二の段のために忍ばせてあるので位置的に鎖で絡めとれない。
「こうなったらッ!」
「どうするつもり!?」
ツナグは走って岩のオブジェクトの背後へ滑り込んだ。
「ははッ! いいぜ、そのままじっとしてろ。タイムアップで俺の勝ちだ」
現在優勢のハイルにとっては好都合。時間切れまで待てば第一ラウンドの負けを取り返すことができるのだから。
ツナグは両手から放出した鎖で岩を覆って形を整えていく。
「何をするつもりだ?」
ハイルは怪訝な顔をして構えた。
金槌のような塊になった岩から垂れる鎖。それを両手で握りしめたツナグは、
「鎖の鉄槌 《チェーンハンマー》」
と言って回転し全力で振りかぶった。
「どりゃああああああッ!」
マズい、と判断した時にはすでに遅く眼前に迫る大きな鎖の塊。ハイルはとっさに盾を構えて防御を固めたが、
「ぐおおおおおおおッ!」
その衝撃と重量に押されて地面を抉りながら後退。体力ゲージはすり減ったものの致命傷は回避。助かったと思いきや、
「まだまだあああああッ!」
ツナグはさらに振りかぶって回転し始めた。回転速度を上げていき竜巻のようになったそれはリコルの薔薇の舞に似ていた。しかしリコルのように自身が移動しなくとも鎖の伸縮によってその攻撃範囲を自在に変えることができる。
「座標更新。角度補正。有効射程の検索。照準補正」
視界の悪いツナグに変わってリンのサポートで確実に狙いを定める。
「あ、ありえねえッ!」
執拗に追ってくる鉄塊の竜巻に驚くハイル。上手く回避しているはずが先読みでもされているかのように壁際へと徐々に追い詰められていく。
「く、くそがッ……!」
盾を用いて防御するもその強大なパワーに圧倒される。ハイルのアビリティは地に足のついた上等なものではあるが、そこにはこの状況から抜けだす術、つまり潜行スキルや跳躍スキル、飛行スキルのようなものは付随していなかった。
それ故に行動範囲を狭めるその攻撃は効果絶大。
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
耐えきれなくなった盾が悲鳴を上げるたびにハイルの体力ゲージが減っていく。
もはや風前の灯。
モニター越しに試合を応援していた出刃具高校の他のメンバーも諦め気味だった。
序盤では緑色だった体力ゲージも黄色に変わり、そして今赤色に。
「もう一息よ!」
リンの後押しでツナグはその手により一層力をこめた。
「いっくぜええええええええええええええええええッ!」
軸足に抑止の力を加えて急激に回転数を落とす。もう片方で一歩前に大きく踏み込んで鉄球を上空へ持ち上げ、相手の頭上へと振り下ろした。
「ふっざけんなああああああああああああああああッ!」
叫び声のあとでバトルフィールドが振動し、試合終了のゴングが鳴った。
しんと一気に静まりかえり、勝敗が表示された。
勝者は二ラウンド先取の望美ツナグ。
「よっしゃあああああああッ!」
モニター上にもはっきりと表示される。その瞬間、彩都高校のメンバーは各々喜びや感心の表情を見せた。
ツナグの勝利により彩都高校に一ポイントが付与される。流れを持っていかれた出刃具高校の顧問は立ち上がって悪い雰囲気を断ち切るかのように一人一人に声をかけて落ち着けていった。さすがは経験者と言ったところだ。
§§§
ツナグが戻ってくると部長が大喜びで迎えた。
「やったね! ツナグ君! 今の試合ものすごく良かったよ!」
「ありがとうございます。部長」
「スマートなこの私のおかげだけどね!」
リンが横から口を挟むが特に気にしない。
「と、とってもかっこよかったです!」
意外にも興奮気味のコムギが部長の背後から現れた。
「あ、ありがとう。コムギさん」
「正直戦うの怖かったんですけど、なんかこうまた勇気が出ました!」
胸に手を当てて目を輝かせるコムギ。それを見ていたらツナグはなんだか恥ずかしくなった。
「――で、次はリコル先輩ですよね。頑張ってください」
「うるせえ。さっさと叩き潰して帰ってくるだけだ」
リコルは面倒くさそうに舌打ちをして壇上へ向かった。
対する相手は同じく二年の
「借りは返すわ」
「はあ? なんの?」
二人はDIVEに入る前から火花をバチバチと散らしていた。
§§§
両者、電脳空間へとログイン。
オブジェクトがランダムに選択されてバトルフィールドの姿が明らかになる。
今回は障害物の少ない草原フィールド風。
間もなく第一ラウンドが始まる。
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