CHAIN_9 新入部員の勧誘
「え? ツナグ、もう学校に行ったんですか?」
朝いつも通り迎えにきたアイサはツナグの母からそう知らされて驚いた。不思議に思いつつ一人で登校すると校門前にツナグがいた。
「ツナグ、ここで何やってるの?」
「ああ、アイサか。見れば分かるだろ。デント部の新入部員を募集してるんだよ」
「え、ほんとに入部したの?」
アイサにとってはまずツナグが入部したことに衝撃を受けていた。
「部長も先輩もいい人だったぞ。……まあ気難しいのもいるけどさ」
「リコルとかね」と横からリン。
「そうなんだ。それで今はツナグが新しい人を募集してるのね。でも目をつけられないように気をつけてね。デント部のことよく思ってない人も多いから」
「知ってるさ。気をつけるよ。それとさ、もしアイサの周りにデントが強いやつとか好きなやつがいたら声かけてくれないか?」
「いいわよ。もし見つけたら声かけとくわね」
「ありがとう。助かるよ」との言葉にアイサは笑みをこぼした。
§§§
早朝。昼休み。放課後。ツナグは空いた時間の全てを部の勧誘活動に注ぎ込んだ。三日が経って何の成果も得られていないが分かったことがある。同じ生徒でも二年生や三年生は最初から相手にしてくれない。一年生はまだ反応がいいのでチャンスがある。
今日はセンイチが部活動を休んで手伝いに来てくれていた。
「センイチ。本当に部活休んで良かったのかよ」
「いいよ。どうせ俺ら一年のやることなんて素振りと基礎練くらいだし」
「テニス部だったっけ?」
「ああ。昔からの伝統だかなんだかで今は雑用みたいなもんだけど」
「そうだったのか。でもまあ、昔からテニス好きだったもんな。センイチは。正直ずっと羨ましかったよ。熱中できるものがあってさ」
「お前にとってデントは今度こそ熱中できるものになりそうか?」
昔からやりたいことが何もなく小学生の頃にやっていたデントも仲間外れにあってからやめた。それをセンイチは間近で見ていた。
「分からないけど、楽しくなってきたかなっていう」
「今はそれで十分なんじゃないか。少なくともこんな馬鹿げたことをやっている時点で興味はあるんだろ」
ツナグと同じくデント部新入部員募集中の紙を掲げるセンイチは笑って答えた。
§§§
やはり二人だと怪しさが薄れるのか何人かの生徒が声かけに応じてくれた。そのほとんどが一年生で中には考えてみると言ってくれた生徒もいた。
「これはなかなかいい感じなんじゃないか」
「ああ。悪くない」
「いい感じね!」
二人とおまけが手応えを感じているのも束の間。遠くから厳つい顔をした男たちが近寄ってきた。
「お前らデント部のやつだな」
「俺はそうですけど。こっちは手伝いです」
ツナグの前にいる男たちは三年生のようだ。
「目障りだから今すぐ失せろ」
「……嫌だと言ったら?」
「明日から学校に来られなくなる」
「それは暴力で片づけるって意味ですか?」
「さあな。解釈は自由だ」
明らかな脅しにセンイチは怒り心頭で、ツナグも苛立っていた。しかし、
「ツナグ! 挑発に乗っちゃダメよ! こういうの相手の思う壺って言うんでしょ! 辞書に書いてあったんだから!」というリンの言葉がツナグを冷静にさせた。
「センイチ。挑発には乗るなよ。こんな場所で暴力事件を起こすのは向こうにとっても良くないはずだ」
「……そうだな。手を出したほうが負けだしな」
牽制にも似たその言葉が効いたのか男たちは余計に苛立って、
「後悔してもおせえからな」
二人から紙を取り上げるとビリビリに破いた。紙片が宙に舞い、男たちは唾を吐き捨ててその場を立ち去った。
「……ツナグ……」
「……ツナグ。大丈夫か?」
「大丈夫だ。それよりもお前テープ持ってないか?」
話しながら紙片を拾い集めるツナグ。
「ああ、ほらよ」
「悪い」
ツナグは集めた紙片を受け取ったセロハンテープで繋ぎ合わせた。不格好だが少なくともまだ読むことはできる。
「まだやるつもりか?」
「当たり前だ。まだ一人も集まってないんだぞ」
「はあ、ほんとお前は一度決めたら突っ走るからな。いいぜ。俺も付き合うわ」
「サンキューな」
そうして二人が粘り強く勧誘を続けていると一人の少女が声かけに応じた。
「あの、私でもできますか? 運動神経はあまり良くないと思いますけど……」
「もちろん! 俺だってそんなにいいほうとは思わないし!」
「そ、そうなんですか。これって他の人と戦ったりするんですよね?」
「そうだよ。すごくリアルな対戦格闘ゲーム、みたいな感じかな」
「でもそういうの苦手かもしれなくて。どうしようかな……」
「ツナグ! もうひと押しよ!」と肩口で応援するリン。
「大丈夫! リアルだからと言って別にそんな痛いわけじゃないし。戦う女の子ってかなりかっこよくて魅力的だと思うよ!」
「じゃ、じゃあ体験入部してみようかな……」
「ほ、本当に!?」
「は、はい。私で良ければ」
ツナグとセンイチは顔を見合わせたあと、大きくハイタッチをした。
「あの、今日はもう帰らないといけないので、来週の月曜日からでもいいですか?」
「もちろん! じゃあ部室の場所教えとくね」
「はい。ではまた来週の月曜日、放課後に」
部室の場所を聞いた少女は一礼して去っていった。
「やったな、ツナグ」
「お前のおかげだよ、センイチ」
「私は!?」
「……そうだな。ありがとう。お前にも助けられたよ」とツナグは小声で言った。リンはそれだけで満足そうにしていた。
「どうかしたか?」
「ん、なんでもない。また借りができたな」
「気にすんな。今度何か奢ってくれればそれでいい」と悪戯っぽく笑うセンイチ。
「はは、それで済むなら安いもんだ」
センイチはいつもこうだ。だからもしセンイチが本当に困るようなことがあったらすぐにでも駆けつけたいとツナグは思っていた。
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