拍手 150 二百四十八「吸収」の辺り
ゼア、ヨニア、ルクニの三人は、後ろ手に縛られて拘束された。
「おとなしくしてな」
ひげ面の男性にそう言われ、三人は反抗する事もなく、黙って捕縛されていた。彼女達の目には、死んだベノーダと他二人の姿が映っている。
彼女達に取って、死とは身近なものだ。少なくとも、あの地獄にいた頃は。
毎日のように、誰かが死んでいた。死体は二目と見られぬ酷い姿である事が多い。どのどれもが、まだ成人前の子供だった。
いつ、自分もああなるのか。最初はとても怖かったけれど、いつの間にか怖くはなくなった。
それどころか、死んでしまえばこの苦しみから解放されると、いつしか死を望むようにまでなっていた。
でも、三人は死ななかった。いつ果てるとも知れぬ苦痛が続く中、彼女達は「大人」になったのだ。そうなると、あの男は途端に興味をなくす。
だから、ゼア達は別の場所に送られた。あの場所とは違う、別の地獄へ。
この地獄には、大人も子供も、男もいる。全員同じ薬を投与されて、奇妙な箱に入れられた。
ここでも、多くの人が死んでいく。薬に耐えられなかったもの、満足な成果を出せずに処分されたもの、いつの間にか死んでいた人もいた。
そして残った者達の中で、さらに最終試験と呼ばれるものが行われた。何の変哲もないナイフを一本、手に持つだけだ。
何人もがナイフを持つけれど、何も起きない。試験を受けた後の人達は、別室へ連れて行かれる。
ゼアがナイフを持った時、それが光った。周囲がどよめくのが聞こえる。でも、彼女は何も感じなかった。
ナイフが光るのは、試験合格の合図だという。ゼアはそれまでの人達が連れて行かれたのとは、違う部屋に連れて行かれた。
結果、ゼア、ヨニア、ルクニの三人だけが、あの試験を通過出来たらしい。その後、これから自分達がどこへ連れて行かれるかの説明が行われ、ゼア達は身支度を調えられて、異端管理局へと送られた。
管理局での訓練は、大変ではあったけれど、苦痛がない分楽だった。聖魔法具というものの使い方を教えてくれるベノーダという人は、いい人だと思う。
彼は怒ったり殴ったりしないし、痛い薬も打たない。ただ口で説明して、実際に使って見せてくれるだけだ。
最初はよくわからなかったけど、段々と使い方がわかるようになった。それでも、一人じゃ満足な攻撃が出来ないという事で、三人で同時に攻撃するように言われた。
三人で揃えるのは、簡単とまでは言わないけれど、そこまで難しくはない。三人で攻撃を合わせるようになってから、ベノーダに満足してもらえる結果を出せた。
ベノーダの死に顔を見て、彼が死んで自分達が生きている事に、ゼアは不思議な思いを感じていた。どうして、彼が死んでしまったのだろう。死ぬのなら、自分達だったのではないだろうか。
もしかしたら、これから自分達も死ぬのかもしれない。敵の手に落ちたのだから、そうなるのだろう。
ああ、やっとこの苦痛から解放されるのだ。そう思うと、ゼアは肩から思い荷物を下ろしたような気分になった。
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