拍手 151 二百四十八「決意」の辺り

 仕事終わりの空を見上げる。あかね色の空が、何だか目に染みる。帝都に出て来て、どれくらいになっただろう。

 まだそれほど、と思う時もあるし、もう結構、と思う時もある。どちらにしても、あの故郷にはもう帰らないだろうな。

「セロアさん!」

 背後から声をかけられた。振り返るまでもなく、声の主はわかる。菜々美だ。

「菜々美ちゃん」

「お疲れ様です。今、仕事終わったんですか?」

「お疲れ様。うん、ついさっき。カウンター業務は割と早く上がれるから助かるわ」

 カウンター業務は表に出ているだけでなく、裏でやる書類仕事が山程あるのだが、今はいい人材が多いので残業する事はない。

 セロアが帝都に来た頃にあった一斉リストラによって、使えない人材が一掃された後に、いい人材が登用されたのだ。

 それを主導したのは、セロア同様日本からの転生者であるギルド統括長官のメラック子爵である。

「なかなかやり手よね、片眼鏡の君」

「え? かためがねのきみ?」

「何でもない。あ、菜々美ちゃん、お夕飯は食べた?」

「いえ、まだです。どこかで食べて帰ろうかなって。帝都って、外食が基本だけあって、安い屋台とかたくさんありますよね」

「どれ選ぶか、迷うよね」

「はい」

 笑い合った二人は、夕飯を一緒に取る事にした。ティザーベルがいれば、彼女も一緒に行くところなのに。

「全く、どこほっつき歩いてるんだか」

「ベルさんですか?」

「そう。冒険者なんてそんなもの、って言っちゃえばそれまでだけどね。一回手紙が来たっきり。こっちの事なんか、もう忘れてるのかも」

「きっと、忙しいんですよ」

「ありがとう、菜々美ちゃんはいい子だわー」

「え? え?」

 その日、二人が選んだ屋台は、ここ最近店を出したばかりのところだった。

「うん、いい味。今度ザミ達も誘ってこよう」

「そうですね。また、みんなで来ましょう!」

 おいしいものを食べると、それだけで少し幸せになれる。その日、セロアと菜々美はほんの少し幸せな気分で、家路についた。

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