拍手 147 二百四十四「予告」の辺り

 その薬を手に入れたのは、ほんの偶然だった。

「ほう? これが噂の?」

「はい、飲ませた相手の感覚が鋭敏になるのだとか」

「ふむ。これを、どこで?」

「申し訳ございません。その辺はご勘弁を……」

「まあ良い。使ってみて、良ければ追加注文をしよう」

「ははっ。よろしくお願いいたします」

 ヨファザス枢機卿御用達の商人が屋敷から去ると、テーブルの上に置かれた小瓶に枢機卿が手を伸ばす。

「ふむ。まあ良いか」

 怪しい薬とはいえ、使うのは自分ではない。使用するのは「おもちゃ」達だ。おもちゃは壊れたら、また手に入れればよい。代わりなど、いくらでも生み出されるのだから。


 結果、その薬に枢機卿はいたく満足したという。それ以来、御用達商人の懐には、薬の代金がたんまり入るようになった。

 その商人が、聖都のはずれにある屋敷に入っていく。

「首尾はどうか?」

「はい。順調にございます」

「薬の使用量は教えたな?」

「もちろんでございます。おかげさまで、売り上げは上々ですよ」

 屋敷の主の特徴のない顔に対し、商人は下卑た笑みを浮かべていた。余程懐が潤ったのだろう。

 主は使用人に大きな木箱を積んだ手押し車を持ってこさせた。

「今日はこれだけ用意した。足りなくなったら、また来るがいい」

「はは」

 商人がほくほく顔で木箱を積んだ手押し車を押し、馬車に乗り込んだのを確認したように、屋敷の主から力が抜けた。

 まるで、操り人形の糸が切れたかのようだ。


 そして、その屋敷から離れた某所で、とある人物が目を覚ます。

「ふむ。これで結果が出るのを待てばいいか」

 しわがれた声は、誰にも聞かれずに夜の闇へと消えていった。

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