拍手 145 二百四十二「新生異端管理局」の辺り
聖都のとある館の地下に、その研究所はあった。
「ダメだ、また壊れてる」
「この薬はダメだな。実験体の持ちが悪い」
「改良の余地はまだまだある」
男達が何人も立ち働き、彼等の陰には大きな四角いテーブル状の者がある。その上には、ベルトで動けないよう固定された少女が寝かされていた。
少女は虫の息だ。もうじき、その短い生涯を終えるけれど、周囲の男達はそんな事に構っている暇はないらしい。
「次の実験体が届くのはいつだ?」
「来月だってよ」
「長いな」
「仕方ない。枢機卿猊下の払い下げだからな」
「へ。いいご身分だよなあ」
「そりゃあお前、枢機卿猊下だからな」
「違いない」
この場所でこんな軽口をたたける程の神経をしていなければ、やっていけない。ここに配属されて、精神をやられて自死を選んだ者は多い。
中には外部に告発しようとして、姿を消した仲間もいた。ばかな事を、と残った仲間は姿を消した男を笑う。
ここで行っているのは、神の御許でその威光を知らしめる為の人材作り、その研究なのだ。
神の教えに背く者、神の教えを受け入れない者達を取り締まる異端管理局。そこでは常人には使いこなす事の出来ない、聖魔法具という道具があった。
適性のある者でなければ、ただのものでしかない。そんな聖魔法具への適性を持つ者は、非情に数が少ないのだとか。
その適性者を、人工的に作り出す。それがこの研究所のテーマだった。実験体は、ある枢機卿が提供してくれる。親類縁者のない、孤児だそうだ。
どうやって調達しているのか、誰も聞いた事はない。聞けば、翌日には姿を消しているだろうから。
彼等の研究は代々続けられ、今いる自分達が何代目に当たるかも、研究者達は知らない。ただ、聖都の大学で優秀な成績を収め、大聖堂付属の研究機関でそれなりの腕が認められるとここに配属になるらしい。
そんな彼等の研究は、もうじき実を結ぼうとしていた。
「やっとか……」
「適性値は決して高くはないが、聖魔法具を扱える数値は出している」
「よし、ではこの三十七号を最初の成功例として、報告をしよう」
「同時期に実験を行った他二体もだな」
「まだ長時間に使用には耐えられないだろうが、こいつらが時間を稼いでいる間に、次の成功例を作ればいい」
こうして、地下の研究施設から三体の成功例が外へと連れ出された。
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