拍手 143 二百四十「十一番都市」の辺り
なければ作ればいいじゃなーい、とばかりに、ケーキ作りに挑戦する事になったセロアと菜々美。
「材料は何とか揃ったけど、型とかオーブンがねえ……」
「さすがに、デロル商会でも扱ってませんでした……」
早くもケーキ作りミッションは、暗礁に乗り上げた。かに見えた。
「やあやあお嬢さん達、何をそんなに悩んでいるのかな?」
クイトだ。どこから聞きつけてきたのか、彼は二人が借りた店のキッチンに来ている。ちなみに、貸してくれたのはデロル商会会頭のザハーが趣味で出している店だ。
「何かウザいの来た」
「ちょっとお! そこ! セロアちゃん! 小声でウザいとか言うのやめてくんない!? しっかり聞こえてるんだけど」
「聞こえるように言ったんですー。皇子殿下がこんなところに何の用ですかねー?」
「皇子って言ってる割には、皇族に対する態度じゃないよね? それ」
「で? 本当に何しにここに来たんですか? 仕事サボって来てんなら、とっととお帰りくださりやがれですよ」
「何故それを!?」
「本当にサボってんのかよ……菜々美ちゃん、あなたはあんなダメな人間になっちゃダメだからね」
菜々美は曖昧な表情で頷く以外になかった。
「それで? 何作るの?」
「ケーキを作ろうと思って」
「ケーキ? え? 作れるの!?」
「味の保証は出来ませんけどね。一応、私も前世で作った経験あるし、菜々美ちゃんもレシピは憶えているっていうから」
「ねえねえ、どんなケーキ? イチゴのショート? それともチョコレートケーキ? モンブランもいいよねえ」
「……もしかして、甘党?」
「どっちもいける!」
「節操なしの両刀か……」
「もしもしセロアさん? さっきから俺への当たりが酷く強いんですけど? 俺、あなたに何かしましたっけ?」
「ああ、ごめんなさあい。つい」
「本当に酷い」
クイトの泣き真似に、セロアは鼻で笑い、菜々美は苦笑する。
「ケーキを焼こうって事になったのはいいんですけど、ちょっと問題が……」
「何々? どんな問題?」
「型がないのと、オーブンが使い慣れていないので、温度設定をどうしようかって」
「なあんだ、そんな事? なら、俺にお任せ」
「え?」
「こう見えても俺、魔法士部隊の副隊長なんだよ?」
「その副隊長さんは、お仕事どうしたんでしょうねえ? 今日、お休みでしたっけ?」
セロアのツッコミに、クイトが慌てて言い返した。
「いや、大丈夫! 優秀な部下がいるから!」
「それ、仕事を部下に押しつけてここに来たって事かしら? これはいよいよ、ネーダロス卿に報告しないと」
「ちょっと! 君達裏で繋がってるの!?」
「どうでしょうねえ?」
くっくっくと悪役ばりに笑うセロア。クイトは劣勢だ。
そこに、菜々美が割って入った。
「あの! クイトさん、オーブンと型、どうにか出来るんですか?」
「へ? ああ、出来るよ。オーブンは問題ない。ちゃんと指定通りの温度で保てるようにするから。型は……この紙、もらっていい。これで作るよ」
「いいですけど……それ、薄いですよ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。いくつか重ねて……はい! これでどう?」
魔法ではなく、まるで手品のように、薄い敷紙を何枚か手に持ってこねくり回していたら、厚紙製の焼き型が出来上がっていた。
持ち上げて角度を変えつつ確認する。
「へー、本当に型だわ」
「クイトさん、凄いですねえ」
「ふっふっふ、もっと言ってもっと言って」
「さ、じゃあ生地を作ろうか」
「スルー!?」
喚くクイトを放っておいて、女子二人でケーキの生地作りに入る。卵、砂糖、薄力粉、バター。
卵と砂糖を泡立てて、薄力粉を混ぜて最後に溶かしたバターを入れる。型に流し入れてオーブンで焼成。うまく出来たようだ。
「これを冷まして切って、生クリームとフルーツでデコれば出来上がり」
「楽しみですねえ!」
「うんうん、いい匂いだよねえ」
「……ま、いっか」
その日、三人で食べたケーキはなかなかの味だったとか。
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