拍手 139 二百三十六「休養」の辺り

 一日目。

 いきなり森の中だった。しかも、木々が大きい。見上げるような高さで、幹も太い大きな木が、まっすぐだったり斜めになったりねじれたりしながら上へと伸びている。

 さすがにベル殿もこれは意外だったらしく、驚いていた。

 こんな森の中を、この「くるま」という馬なしの馬車は進んでいけるのだろうか?

 この「くるま」、乗り心地はいい。以前乗ったベル殿作の大型馬車よりも。あれの乗り心地も素晴らしいと思ったが、これはそれ以上だ。

 いかん、ベル殿の側にいると、そのうち離れられなくなりそうに思えてくる……

 結局、森を出るまで昼過ぎまでかかった。森から出てすぐ、家を出して中で昼食を取り一休み。女には女の事情というものもあるから、これは大変助かる。

 その先がどうなっているのか、考えたらいけないんだろうな、きっと。

 道と草原と丘以外何も見えないから、丁度いいという事で、私も運転を代わる事になった。

 この車、馬車よりも扱いが難しい。一体これを動かしているものは、何を考えているのか。さっぱりわからない。

 大体、何故こんなにあれこれ動かさないとならないんだ……

 運転が苦手なのは私とヤード殿だ。ベル殿とレモは、難なく運転する。この差は何なんだ?

 今日は日も暮れたし、休みという事で、家を出してもらう。

 今更だが、こういった旅で一番大変なのは野宿する事だと思うのだが、ベル殿と一緒にいると、色々と常識が覆される気がする。

 まあいい。便利なのはいい事だ。


 二日目。

 朝起きたら、家の周囲が囲まれていた。この付近に住む村の者だという。その後、彼等の領主……私達にとっても族長のようなものらしい……その使いだという武装した騎乗集団に連れられて、彼等の街へと行った。

 人の街というのは、どこも似通っているようで違う。ここも周囲をぐるりと囲んで防衛に適した街ではあるけれど、壁ではなく、土手のようなもので囲んでいる。

 これでは攻め入られるのでは? とも思ったが、土手の外側に大きく深い空堀が設けられていて、簡単に攻め入られないようになっていた。

 こういうところが、人間の強みなのかもしれない。エルフは、結界と森の木々に守られていたからな。

 その領主の依頼に、ベル殿が興味を示した。どうも彼女は、魔物を狩る事に無上の喜びを見いだす質らしい。

 魔物など、何がいいのか私にはよくわからない。そうこぼしたら、レモも私と同じだという。

 という事は、人間は魔物を狩る事を好むという訳ではなく、ベル殿が特別という事だろうか?

 魔物は、彼女が簡単に狩ってしまった。私達は、ベル殿が森の側に出してくれた家で休んでいただけだ。

 そう、魔物を狩る場所というのが、あの家の周囲を囲った連中がいる村のすぐ側だという。魔物を一掃して、森の中に道を通す計画らしい。

 それでいがみ合う村が仲良くなるとは、到底思えないのだけれど。

 まあ、私は通りすがりの旅人で、所詮余所者だ。何も言うまい。


 それにしても、魔物を狩って帰った時の領主達の様子は、何だか嫌な感じだった。あれではまるで、エルフを見るヤランクス共の目だ。何事もなければいいが。

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