拍手 140 二百三十七「三番都市」の辺り

 地下都市の人間は死に絶えた。死体は、放っておけば都市の予備機能が片付けるという。

「皮肉なもんだな。自分達が作った街が、自分達をゴミのように扱うとは」

「人としての尊厳も守られず、弔う事さえないのだからな」

「それが、こんな人工の街を作り上げた連中にふさわしい最後だ」

 三番都市にウイルスをばらまいた連中は、どこか浮かれた様子だ。そんな彼等に、リーダー格の男が声をかける。

「おい、まだ仕事は終わってないぞ。罠の設置がまだだ」

「わかってる」

「今行くよ」

 三番都市に入り込んだのは、彼等三人とあともう一人だけだ。彼等だけで、この都市に住む数百万の命が奪われたなど、誰が信じよう。

 だが、それは実際に起こった。そんな大それた事を成し遂げた彼等は、やはりどこか浮かれていたのだ。


 罠は一番奥から仕掛けるようにと、「本部」から指示を受けている。受け取った罠を、彼等は手分けして重要施設から仕掛けていった。

「後は凍結された支援型の部屋だな。動力炉は終わっているんだよな?」

「ああ、仕掛け終わってる。あれに引っかかる奴は可哀想になあ。生きながら解けていく呪いの罠だぜ」

「それに比べると、支援型の部屋に仕掛ける罠はまだ優しいな。部屋ごと吹き飛ばす程度だ」

「一瞬で死ねるなら、楽だよな」

 そんな事を笑い合いながら、彼等は罠を仕掛けつつ上へと戻っていく。既に地下都市は死体の山だ。持ち込んだウイルスは、非情に毒性が強くて感染力も高い。彼等は前もってワクチンを接種していたから、発症せずに済んでいるのだ。


 最後の罠を仕掛け終わり、これでこの鬱陶しい地下都市ともおさらばだと四人で顔を見合わせた時、リーダー格の男は違和感に気づく。

「おい、その首の痣、どこでつけた?」

「え? 首?」

 彼等は黒一色のハイネックのシャツに黒のスラックスで行動していた。帽子をかぶり、ゴーグルを付け、口元はマスクをつけている。

 そのハイネックの隙間から見える首に、赤い痣が見えるのだ。四人は顔を見合わせる。不意に、一人が痣のある男の袖をまくった。

 腕には、赤い斑点がいくつもある。

「あ……ああ、な、なんで……」

 この斑点は、地下都市にばらまいたウイルスが元で発症する病気の特徴だ。という事は、斑点が出ている彼は発症しているという事になる。

 何故、どうして。きちんとワクチンを接種したのに。

 その時、リーダー格の男の脳裏に、嫌な考えが浮かんだ。もしや、自分達が接種したワクチンは偽物だったのではないか。

 もしくは不完全な代物で、発症を完全に抑えるのではなく、ただ単に遅らせるだけのものだったら。

 現に、仲間の一人がこうして発症しているではないか。斑点が出ている以上、死はもう目前だ。

「い、嫌だ……死にたくない……」

 泣きそうな顔で縋ってくるが、仲間にもどうしようもない。それどころか、彼等にも発症の恐怖がある。

 一人が、発症した男を突き飛ばした。

「俺は、まだかかっていない……」

 そう言うと、ベルトから小型のガス銃を取り出し、突き飛ばした男に向けて発砲した。弾が切れるまで、何度も。

 弾のどれかが急所に当たったのか、男は病気で死ぬ前に仲間に撃ち殺された。なんとも言えない空気が漂う。

「……上に戻ろうぜ」

「あ、ああ」

 銃を持った男の提案に、誰も何も言えずに従った。リーダー格の男でさえ。

 地上に戻った彼等が、「本部」に辿り着く事はなかった。そして、本部も読めなかった災害が、彼等によって地上にもたらされる。

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