拍手 136 二百三十三「首輪」の辺り

 目が覚めると、城の一室だった。

「……!」

 起き上がろうとしたら、全身に痛みが走る。自分は、一体どうしたというのか。目を覚ます前の記憶を辿り、裏庭での一件を思い出す。

「馬鹿な……」

 己の手を見ながら、シセアドは呟いた。あの呪(まじな)い道具が使えなかったなど、今まで一度もなかったのに。

 だが、確かにあの瞬間、自分の目の前で破裂した道具を見た。見間違いなどであるものか。そっと触れる目元には、痛みと共に指先に当たる皮膚の変化が感じられる。

 破裂した道具の破片で、皮膚が切れたのだ。目のすぐ側だったのは、運が良かったのか悪かったのか。ともかく、失明を免れた事だけはよしとしておこう。

「! 気がつかれたのですね? 今、医師を呼んで参ります!!」

 城付きの侍女が、腕にシーツを持って部屋に入り、シセアドの意識が戻っているのを確認した途端、部屋から駆けだしてしまった。

 聞きたい事があったのに。あの後、彼等はどうしたのだろう。あのまま、城から、この領から出て行ってしまったのだろうか。

 あの力を、みすみす取り逃してしまうとは。主に顔向けできない。


 その後、医師から説明を受けたところ、酷い落馬に近い怪我を負っているそうだ。ただ、復帰出来ない程ではないという。

「運が良かったですな」

 医師の最後の一言に、思わず苦笑が浮かぶ。先程、自分もそう思ったところだ。だが、運の良さと悪さは交互にやってくるものなのかもしれない。

 医師が部屋から出て行くのと前後して、主である領主ペジンバル卿ニウーズが入ってきた。背後に、側近二人も連れている。

 一目で、彼が不機嫌だという事がわかった。それはそうだろう。大事な仕事を任されていたのに、シセアドのへまのせいで大きな獲物を取り逃がしたようなものなのだから。

「……言いたい事はわかっているな?」

「申し訳、ございません」

「まずは回復に専念せよ。話しはそれからだ」

「はい……」

 怪我が治ったら、城から放り出されるかもしれない。剣以外能のない自分が、城の外で生きていけるだろうか。

 ふと、あの時の呪い師の顔が脳裏に浮かんだ。酷く怒った顔で、こちらを睨み付けていた。

 なのに、その怒りに何故か美しさを感じてもいるのだ。おかしな事に、あの一瞬、その美しさに見とれていたからこそ、この醜態をさらした。

 もっとも、その彼女にこの怪我を負わされたのだけれど。


 怪我が治ったシセアドは、一兵卒からのやり直しを命じられた。驚きはあったものの、主の元で再び戦えるのなら、と彼はそれを受け入れる。

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