拍手 134 二百三十一「魔物狩り」の辺り
そのものは、森の王だった。長らく森に君臨したそのものに、敵うものなどなにもいない。どの魔物も、その獣も、そのもの前にはひれ伏した。
そのものは、常に森の奥深くに潜んでいる。あまり森中を駆け回ると、小物達を脅かしてしまうからだ。そんな事は望まない。
ただ、平穏に暮らす事。それがそのものの最大の望みだった。
ある時、一つの異形が森の奥までやってきた。配下の魔物に似ているが、毛が殆どない。手には不格好な細長い枝のようなものを持ち、耳障りな声で鳴く。
あまりに不快なので、瞬時に命を刈り取った。それは王たるそのものにのみ、許された事だ。
一つの異形を倒した後、同じ異形は来なかった。
それからどれくらい昼と夜を過ごしたか。森の外から、何やら細いものが体に絡まった。まるで蜘蛛の巣にでも引っかかったような不快感を感じ、糸の大本へと向かう。
この糸は、危険だ。何故そう思ったのか、そのものにもわからない。ただ、この糸を操る者は屠らねばならない。そう本能が駆り立てるのだ。
そうして久方ぶりに出た森の外には、いつぞや刈り取った異形に似たものが立っている。あれが、糸の大本だ。あれは、倒さなくてはならない。
いつものように、角と蹄で倒そうと向かったところ、あの糸のようなものに絡め取られて身動きが取れなくなった。
これは、何だ? どうして自分は、こんな森の外で倒れなくてはならないのか。あの異形がこちらを覗き込む。
ああ、あれは、倒さなくてはならないのに。
そのものの意識は、そこで途切れた。
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