拍手 092 百八十九「再会」」の辺り

 それは、いきなり村にやってきた。

「何だ?」

 畑を荒らす害獣を始末し終え、借りている家に戻る途中、村の広場から大声を張り上げる者がいる。

 ひょいと広場を覗くと、何やら台の上に乗って少し高くなった場所から細身の男が叫んでいた。

「神の教えに従いなさい! 我らが神は、あなた方を救いたもう方なのです!」

 自分達の神は平等で、神を信じれば天国に行けると男は説く。だが、村人には響いていない様子だ。

「神様なら、村にもおるでよ」

「そうだそうだ」

「うちの村は、うちの神様に守ってもらってるから、余所の神様はいらないんだ」

「そうだそうだ」

 村人からのいらないという言葉に、男は激高した。

「何という! 我が神を愚弄するなど、もっての他! 神罰が下るぞ!!」

「いや、だから俺らの神様は、あんたらの神様とは違うから――」

「ええい! やかましい! この! 私が! せっかくこんな辺鄙な村まで来てやったというのに!! 何故我が神を信仰しない!?」

 随分と勝手な言い草だ。勝手に押しかけてきて、勝手に自分達の神を信じろと言われて、はいそうですかと受け入れる人間の方がどうかしている。

 怒り狂う男は村人に殴りかかったが、細身の彼が畑仕事などの肉体労働をしている村人に適うわけがない。

 一発軽い拳は入ったが、その倍以上の拳が返されて、細身の男はその場で吹っ飛ばされた。

「助祭!!」

 お仲間らしい男が、細身の男を助け起こすが、既に村人の怒りは振り切れている。だが、細身の男もただでは引き下がらないらしい。

「お、覚えていろ!! 我が神に命を捧げた者達が、必ずや貴様ら不信心者を罰するだろう! その時を震えて待つがいい!!」

 捨て台詞を吐くと、細身の男は仲間と共に村を後にした。


 何事もなく数日を過ごした後、今度は武装した兵士集団が来た。

「この村で邪教が信仰されていると報告を受けた。相違ないか?」

 村人は、当然首を傾げる。邪教とは、一体何の事なのか。妙なきな臭さを感じ、レモは物陰に隠れて見ていた。

 村人と兵士のやり取りが決裂したのか、兵士が腰の剣を抜く。村人に斬りかかろうとしたまさにその時、背後からレモの一撃を受けて兵士は倒れた。

 倒れた兵士と一緒に来た者達も、村人の手を借りて全て倒し、命のある者は縄で縛り上げて倉庫に押し込める。

「早晩あいつらの仲間がまた来るだろう。村長、どうする?」

 大分流暢になったレモの言葉に、村長はうなだれるばかりだ。

「手段は二通り。ここで迎え撃つか、それとも村人総出で逃げるか」

 指を二本立ててそう詰め寄るレモに、村長も村人達も何も言えない。

「もっと言うと、ここは逃げるのが最善の手だと思うぜ」

「しかし、この村を捨てていくなど、先祖に申し訳が――」

「子や孫が死に絶える方が、先祖も悲しむんじゃねえのかねえ?」

 辛辣な言葉だが、誰も反論しなかった。彼等も薄々わかっているのだろう。先程のような兵士達がもっと大勢で来れば、この村などひとたまりもないという事を。


 結局、妻や子まで殺されては適わないと、村人総出で夜逃げが決まった。元々あまり物がない村だけに、荷造りはすぐに終わったらしい。

 収穫もあらかた終え、次の種まきに入る前で良かったと、お互いに慰め合う。

「さて、じゃあちょいときついが、このまま行こうか」

 村長を先頭に、当てのない旅が始まった。

 それが、最高の形ですぐに終わりを迎える事になるとは、この時は誰も想像もしていなかった事だ。

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