拍手 093 百九十 「新天地」の辺り

 その頃のフローネルは、一人残された家の中でまったりとした時間を過ごしていた。

「遅いなあ……」

 窓から見える外は、既に夕暮れの時間帯だ。家の中には食料もあるし、何なら調理済みの料理が保管されているのも知っているので、飢える事はない。

 置いて行かれはしたけれど、遅くとも明日には迎えに来るだろう。

 それよりも、フローネルには気になる事があった。ティザーベルとレモの関係だ。

 仲間という言葉は、ティザーベルの口からよく聞いた。そこから、自分にとっての仲間、カルテアンやアルスハイと同じようなものだろうと思っていたのだ。

 だが、ティザーベルはレモに会った時、泣き出した。あの時、自分が知っている「ベル殿」はどこにもなく、そこにいたのは寄る辺ない身を嘆く女の子の姿だったのだ。

 これまで、彼女には幾度となく助けられている。自分の身も、妹の身も。里だって、大きな意味では彼女に救われたようなものだ。

 それに、さらに多くの同胞をも、彼女は救ってくれた。行き場をなくした彼女達の為に、新しい里まで開いてくれたのだ。感謝しかない。

 そのティザーベルが、目の前で人目も憚らずに泣くとは。相手のレモという男は動揺した様子も見せず、ただゆっくりと背中を撫でていた。

 彼にとって、彼女は目の前で泣いてもおかしくない相手という事だ。

「うむう……仲間なら当然……なのか? いや、だがカルテアンやアルスハイが泣き出したら、私なら叱咤するな……」

 人前で泣くなど、戦士の風上にもおけん。そんな軟弱さでヤランクスと戦えるものか。

 フローネルにとって、仲間とは共に戦う相手の事を指す。漏れ聞こえたところによれば、あのレモという人物も魔物を倒していたという。やはり、戦う者だ。

 なのに、ティザーベルは彼の前で泣いた。そりゃもう、子供のように。これは一体、どういう事なのか。

 そもそもあの二人は、本当にただの仲間なのか。

「……聞いたら、教えてくれるだろうか」

 そんな悶々とした時間を過ごしていたフローネルは、気がついたら夜も更けていた事に衝撃を受けつつ、まだ帰ってこない二人を心配した。

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