拍手 115 二百十二「短い会見」の辺り

 その日、平穏な昨日の続きの今日だったはずが、いきなり終わりを迎えた。

「? 何か、音が聞こえないか?」

「え? そう?」

 そんな声が耳に入ったと思った途端、少女の視界は暗く閉ざされる。

 次に気がついた時には、何故か体が動かなかった。

「う……うう……」

 声もろくに出せない。一体、自分はどうなってしまったのか。周囲には、何かが弾けるような音や、ごうごうという音、熱、誰かの叫び声。

 腕を上げようにも、上がらない。体を起こそうとしても、自分の体なのにちっとも持ち主の言う事を聞きゃいない。

 唯一動かせる目で見られる範囲を見回すと、空の青と壁の黒、それと端の方にちらちらと炎の赤が見える。

 街が、燃えていた。


 後に、ヴァリカーンからの理不尽な襲撃を受けたのだと聞いた。少女の生まれ育った街は、一番最後に焼かれたらしい。ほんの一瞬で、街は燃え尽きたのだとか。

 そんな中、運良く助かった十六人の中の一人が少女だった。両親や兄弟は全て街と共に焼けたらしい。

 元々そりの合わない親兄弟だった。両親は根性の悪い兄だけをかわいがり、姉はそんな両親や兄への不満を少女をいたぶる事で解消するような人だったから。

 家を出たいと思っても、女が一人で生きていけるほど世の中は甘くない。嫁に行けば家からは切り離されるが、今度は夫の家族に縛り付けられる。

 なんて窮屈な人生なんだろう。それでも、酷い火傷を負ったけれど、生きているのは神様の思し召しなのかもしれない。

 他の街では、大半の人が無事でここに逃げ延びたんだとか。とても綺麗に整えられた、見た事もないようなヘンテコな街。

 それでも、生まれ育った街で負ったなら、まず生き残れないような火傷を負ったというのに、少女は生きている。この街で治療を受けられたからだ。

 しかも、王女様……いや、今は女王様になったスンザーナ様がお見舞いにまで来てくれた。飛び上がる程びっくりしたのは内緒だ。

 女王様は、今は耐え忍んでほしい。必ず、国をサイコウするから、と仰っていた。サイコウって何だろう? 首を傾げながら聞いたら、もう一度、あの街で皆暮らせるようにするって意味だそうだ。

 なくしたものも多いけど、きっとこれからだ。

「大丈夫。私は、まだ生きてるんだから」

 少女はそう、呟いた。

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