拍手 114 二百十一「燃え尽きる街」の辺り

 グサンナード王国王都バルウ。ここで三日後に大がかりな亜人市が開かれる。市は定期的に開催されているが、三日後の市はここ最近では最大規模のものになるそうだ。

「で? この市をどう壊滅させるんだ?」

「まずは捕まっているエルフや獣人を逃がす」

「まあ、あの人数をどうやって……とは今更聞かねえよ。嬢ちゃんと一緒にいると、大概の事には慣れると思ってたけどなあ。まだ驚く事があるたあ思わんかったわ」

 レモが言っているのは、都市の機能を使った移動の事だろう。本来は支援型が中心となって使う機能だそうだが、今はフローネルとレモがはめている腕輪にその機能がついている。

 これを使い、既に周辺の街に捕らえられていた亜人達を地下都市に移動させて、そこから新しい里へと移住させている。

 地下都市を経由するのは、健康状態を調べる為だ。栄養が足りていなかったり、病気や怪我をしている者達もいた。

 地下都市には病院があり、病気も怪我も治療する事が出来る。今のところ、地下都市で治せなかった病気も怪我もない。幸いな事に、身体が欠損している者はいなかった。

 目に見えない傷を負っている者もいる。精神治療と呼ぶそうだが、そうした治療も、地下都市の病院なら受けられるのだ。

「下調べでは、今回の市に出される亜人達に怪我や病気はないらしい」

「そりゃそうだろ。さすがの亜人商達も、市のために気を配ってるさ」

「どういう事だ?」

 首を傾げるフローネルに、レモは淡々と答える。

「市に出す大事な商品だ。怪我だの病気だのってなあ、商品価値を落とす原因だからな」

「だから、商人も気をつける、と?」

「そういうこった」

 フローネルは、静かにレモの胸ぐらをつかんだ。彼女の怒りはレモにも伝わっているだろうに、彼はいつも通りの様子だ。

「俺は事実を述べたまでだぜ?」

「だからといって、同胞や獣人達を『商品』呼ばわりしたのは許せん」

「落ち着け。かっかしてると出来る事も出来なくなるぞ。お前さんの敵は俺か? それとも市を開く商人共か? それとも亜人を今の立場に押し込めているどっかのお偉いさん達か?」

「全部だ!!」

「俺も含めるのかよ」

 心外だと言わんばかりのレモの口調に、「そうだ」と反射で答えそうになるけれど、気力で押さえ込む。

 彼は、敵ではない。先程の商品云々も商人側からの視点で話したに過ぎないのだ。わかっている。この怒りは別の相手へのものだという事は。

 ギリギリと歯を食いしばる事で怒りを散らし、レモから手を離す。

「決行は明日の昼だ」

「了解」

 市が立つほんの少し前に亜人達が全ていなくなれば、市は開く事が出来ない。商人達の面目も丸つぶれだろう。

 彼等が「客」からどういう扱いを受けるかわからないが、そんな事はどうでもいい。この街の市が二度と開かれないようになればいいのだ。


 忽然と姿を消した亜人達に、亜人商の者達は大層慌てたという。顧客には街の有力者や他国の王侯貴族も含まれていたので、商人達は大分肝が冷えたのだとか。

 あれだけの数と質を揃えるには、どれだけかかる事か。中には仕入れの資金が足りず、廃業を余儀なくされた者もいるという。

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