拍手 112 二百九「シーリザニア、急襲」の辺り

 街に入り込むのも、大分慣れた。最初は緊張したものだが、今は何食わぬ顔をして「敵」のいる場所を偵察出来る。

「あの店だ」

「店って構えじゃねえな」

「後ろ暗い事をやっているからだろう」

「なるほど」

 今回、同胞の救出に手を貸してくれるこのレモという男は、恩人である「ベル殿」の仲間だという。

 彼と再会出来た時、彼女は感極まって泣き出していた。それまで年に見合わぬ立ち居振る舞いだったものだから、すっかり彼女の実年齢を忘れがちだけれど、彼女はまだ若い。

 何なら、フローネルの妹ハリザニールよりも年下かも知れなかった。

 その年若い彼女は、自分や仲間だけでなく、妹を、さらには里までもを救ってくれたのだ。受けた恩は大きい。

 少しでもその恩を返したいと思っているけれど、フローネルに出来る事などたかが知れていた。何より、「ベル殿」には何よりも強力な「魔法」の力がある。

 何もない場所にいきなり火をおこしたり、水をあふれさせる事もある。また、相手の注意力を散漫にさせてこちらに気付かせない術や、一瞬で全く違う場所へ移動する術もある。

 それらのうちのいくつかは、フローネルが右手にはめている腕輪に込められているそうだ。持ち主の意思に反応して発動する、と聞いている。最初はよくわからなかったけれど、地下都市で何度か練習したおかげでコツはつかめた。

 同行しているレモも同じ腕輪を持っているのだけれど、彼は使いこなす事が出来ないでいるようだ。本人曰く「向かない」らしい。

 その代わり、彼は自分の力で魔法に近い事をしてのける。相手の注意をそらしている間に、相手の息の根を止めるというのを初めて見た時、何が起こったのかと我が目を疑った程だ。

 どうやったのか問いただしても、教えられないと躱されるばかり。そのうち、話したくない事なのだと理解して聞くのをやめた。

「それにしても、こんな昼間っからやるとはな」

「彼等が店を開くのは夜だ。だから、昼間の方が警戒が薄い」

「なるほど」

 この街にも、同胞が捕まっている。今目の前にある「店」の地下に、約十五人程。毎度ながら、怒りで目の前が真っ赤になりそうだ。

 ここに捕まっている彼女達は、全員攫われてここに連れてこられている。攫ったのは、宗教組織の下部団体ヤランクス。奴らは、エルフや獣人といった種族の女性を中心に攫い、店に売り飛ばす。

 特にこの国では首都で大きな「市」が開かれるそうだ。攫われた者達が、そこで売り出される。

 次に市が開かれるのは二十日後。それまでに、周辺の街から同胞や親しい種族の者達を救出しなくては。

「では、行こうか」

「おう」

 店には表から堂々と乗り込む。問題ない。腕輪はきちんと使いこなせるようになった。このまま周囲に溶け込みながら進んで、同胞が捕らえられている地下へと向かう。

 そこで、全員を魔法で移動させれば完了だ。既に地下には報せを送り、救出に関する承諾を得ている。

 最初の頃は、いぶかしがられたものだ。でも、か細い糸をたどるように、繰り返してきた自分たちの行いは、離れた街の同胞の耳にも届いていたらしい。どこでも報せを送るとすぐに了承の返事が来るようになった。

 辛くとも、どうか待っていて欲しい。必ず助けに行くから。

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