拍手 087 百八十四 「ヤパノア」の辺り

 日々をなんとなく過ごしている時に、ふと思う。

「今頃何やってんのかねえ……」

 連絡が来なくなって、そろそろ一月は数えるか。前の手紙に、次の連絡は遅くなるかもしれない、とあったけれど。

 元々危険な商売をしている身だ。今も、こことは違う大陸に飛ばされているという。そこからの帰還方法がまたぶっ飛んでいるから驚きだ。

 この国で、あの手紙の内容を信じるのはネーダロス卿達とセロアくらいのものだろう。つまり、前世日本人としての記憶がある者達だ。

「あ、菜々美ちゃんもか」

 彼女は転生者ではなく転移者だが、日本の知識は持っている。

 それにしても、こんなファンタジーな世界にいて、まさかSFのような話を聞くとは思わなかった。

「しかも、六千年? ミイラだって残れないんじゃないの?」

 ギルドの職員寮の自室で、買ってきた酒を手酌で飲みながらぼやく。よもや六千年前も前に、今の帝国より魔法技術が進んだ世界があったとは。

 その世界が滅んだ原因がまた酷い。魔法を否定する組織があったというのだ。その連中が、滅亡したはずの細菌だかウイルスだかを復活させて、人を殺しまくったそうだ。

 魔法技術が進んでも、滅びたはずの病原菌に負けるというのが何だかシュールに感じる。

 とりあえず、ヤード達とはぐれているというから、彼等を見つけるまで帝国には帰れないのだとか。

 それに、途中でエルフに出会ったというではないか。詳しい事は戻ってから、とあったが、ぜひとも生エルフに会ってみたい。

 それが無理なら、写真くらい撮ってきてほしい。とはいえ、まだ帝国の技術でも動画どころか静止画すら開発されていないけれど。

 研究機関になっているという、魔法士部隊がちゃんと働けばいいのに。そういえば、ネーダロス卿繋がりで交流を持ったクイトは、この国の十六番目の皇子で魔法士部隊の副部隊長ではなかったか。

 今度会ったら問い詰めてやる。

 大分アルコールが回ってきているけれど、それに気づかないセロアだった。

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