拍手 088 百八十五 「動力炉の罠」の辺り

「うーん……」

 画面を睨みつつ、唸る声がする。

「うるさいですよ、先輩」

「少しは心配とかしようよ。『どうしたんですか?』とか聞きなよ」

「時間の無駄です」

「酷くね? つか酷くね?」

「くだらない事を言っている暇があったら、仕事してください。支援型の構想、まとまったんですか?」

「んー、あと一歩って感じ?」

「人工人格の基礎は出来てるんですから、早いとこ作り上げてくださいよ」

「いや、そう言うんなら、君が作りなよ」

「寝言は寝て言え。あんたの仕事だろ」

「怖ーい。この後輩怖ーい」

 後輩と呼ばれた彼は、先輩とやらを無視して、自分の仕事に向き直る。

「いやさ、人工とはいえ人格乗せるんだろ? 疑似とはいえ、生物じゃん。なのに、いくらでも再生可能ってのが、どうにもねえ」

「都市の機能を統括する支援型ですよ? 壊れましたそうですかじゃ済まされません。再生機構はつけるべきです」

「わかっちゃいるんだけどさ……生き物って、やっぱり生まれた以上死ぬべきものだと思うんだよ。だから、疑似とはいえ生物である支援型にも、死の概念をだね」

「あんたのその考え方なんぞ、何の役にも立ちませんよ。大体、大本の考え方から逸れるでしょうが」

「わかってるよー。ちぇー、この後輩はロマンってものを解さないからなー」

「くだらない事言っていないで、仕事しろ」

 そろそろ後輩のこめかみに青筋が見えてきそうだから、ここまでだ。先輩と呼ばれた男は、再び画面を睨み付ける。

「……こんな精巧に作るんなら、死の概念も入れるべきなんだ。どうして、上の連中はそれがわからないんだよ」

 しばらく考え込んだ後、男はある一文を付け加える。これが支援型にとって幸となるのか不幸となるのかはわからない。

 誰にも見つけられないよう、深い場所に隠しておこう。見つかったら、都市のお偉いさん達に消されてしまうから。

 再生したって、それは元の通りという訳ではないんだよ。

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