拍手 086 百八十三 「猪狩り」の辺り

「何が足手まといだ!!」

 バーフと共に森へ行く連中の中からは、口汚い罵り言葉があふれ出ていた。

「俺達があの女達よりも弱いとでも言うのか!」

「馬鹿にしやがって」

 そして、彼等を遠目にしながらニヤニヤとする一団もいる。先程までバーフと言い争っていた連中だ。

「へ! 余所もんの、それも女なんかに馬鹿にされてやがんの」

「仕方ねえ。あいつら、本当に弱いからなあ」

「森に入っても、猪に食われるだけじゃねえか?」

 お互いに、聞こえていても相手の言葉は無視している。その様子にも、モーカニールは言い様のない嫌悪感を抱いていた。

 一番の嫌悪対象は、先程までここにいたあの女、ティザーベルという名の余所者だが。

 何故、あんな女に依頼などされるのか。しかも、あんなに親しげに話されて。

「マレジア様……お望みでしたら、私が何でもいたしますのに……」

 モーカニールにとって、マレジアはただしく神だ。不思議な力を操り、時に村やそこに住む民を助けてくれる。

 それだけではない。幼い頃に母の役目を引き継ぐ挨拶として、初めてマレジアに遭った時の事だ。

 あの祈りの洞の部屋で、間近に見たマレジアはこの世の何よりも尊い存在だった。幼心に、母同様この方に一生仕えるのだと心に決めたのに。

 実際は、巫女と呼ばれる世話役にすらなれず、村と洞を結ぶ連絡役程度にしかなれないでいる。

 もどかしい。マレジアに対する尊崇の念は、誰にも負けないのに。

 あの女など、森の中で猪に食われて死んでしまえばいい。あの巨大猪を女二人で狩るなど、村の男達が言うように絶対に無理だ。

 本当は、兄達の一行に混ぜ込んだ後、顔見知りに頼んでこっそり始末してもらおうと思っていた。なのに、あの女は仲間の女と二人だけで森に入るとは。

 直接手を下す手間が省けたというものだ。せいぜい森の中であがけばいい。

 モーカニールは、暗い笑みを浮かべていた。

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