拍手 085 百八十二 「スミスという男」の辺り
繁栄を極めた世界が崩れるのは、本当にあっという間だった。
「自分達だけ、ワクチンを作って接種していたのか……」
既に絶滅していたはずのウイルス。それを復活させてばらまいたのは、自然派と呼ばれる魔法を否定する一派だった。
最初は小さな集まりに過ぎなかったのに、ほんの十年かそこらで数十倍にまで膨れ上がった派閥だ。
組織も大きくなれば、色々と考え方の違いが出てくる。自然派もそうで、内部で熾烈な主導権争いがあったと聞いていた。
主導権を握ったのは、中道派。比較的穏健な派閥で、自然派の中でも最大派閥だった者達だ。
だから、誰もが安心していた。過激派の中には、魔法研究者や魔法技術者に対する脅迫が横行していたから。
だというのに……
「ここも、もう終わりだ」
「このまま、世界が終わるんですか!? あんな連中だけが生き残るだなんて!!」
「いや、まだ望みはある」
「え?」
ぽかんとする助手に、十二番都市の保養所の話をする。あそこは都市が凍結されても、軽く一千年以上は保てるように設計されているのだ。
そして、そこに何人かの魔法研究者が滞在している。
「さすがに過激派共も、突発の予定までは把握出来なかったと見える。あそこにいる連中が、ワクチンを開発してくれる事を祈ろう。それに、他の都市でも職員が何人か帰省中だったはずだ」
「ですが、地上の都市も、もう……」
「あのウイルスは爆発的に増殖するが、離れた場所までは届かない。空気感染だが、空気中で生存出来るのはわずか数時間だという検査結果だ。しかも、紫外線には弱いらしい」
「では」
「暑い地域なら、まず確実に生き残れる」
だが、それ以外の都市は絶望的だ。地下はもちろん、地上も。ただでさえ、ここ数十年は出生率が落ちて人口減が叫ばれていたというのに。
過激派共は、一体何がしたいのか。滅びた世界を独占するのが、彼等の望みだというのか。
後は生き残る連中に望みを託す以外にない。もうそろそろ、自分も限界だ。
「後は……頼んだぞ……」
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