拍手 100 百九十七 「教皇庁にて」の辺り
暗い。この場所が暗いのか、それとも自分の目がもう見えなくなっているだけなのか、判断が付かなかった。
彼がここに連れてこられてから、もうどれくらい経ったのだろう。共に捕まった彼女は無事だろうか。
まさか、連中が里の中まで入ってくるなんて。里は安全だと言われていたのに。
どうして、こんな目に遭わなくてはならないのか。自分も彼女も、里の掟を守って静かに暮らしていただけだった。それなのに……
憎きはあのヤランクス共。彼女の事を、舐めるように見ていたあいつら。それに、あの太った男。
もう、腕は上がらない。多分近いうちに切り取られるだろう。足先はもうない。歩く事すら出来なくなった自分は、そう長くは生きないと思う。
それでもいい。こんな地獄のような場所から逃れられるのなら。似たような時期に連れてこられた同胞の中には、心を病んで何もわからなくなってしまった。
ある意味、その方が楽なのかもしれない。誇り高いエルフでも、こうも長時間痛めつけられては耐えられるはずもないのだ。
惜しむらくは、あの豚のような人間に仕返しが出来ない事。口にするのも憚られるような屈辱を与えられた恨み、せめて少しくらいは晴らしたかった。
足音が聞こえる。またあの豚だろうか。まだ歯があるうちに、奴のあれを食いちぎってやろうか。
ああ、でも連中は何やら奇妙な薬を持っているから、その程度すぐに治してしまうだろう。
口惜しい……本当に、口惜しい……
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