拍手 096 百九十三 「検査」の辺り

 フローネルは、ベッドに横たわるレモを見下ろして、何度目かになる溜息を吐いていた。

 彼が倒れたのは、都市に戻ってきてすぐである。どうやら、これまでの心労が祟ったようで、微熱を出したのだ。

 ティーサによる簡易の診察の結果、体力が落ちて微熱が出ているけれど、体を休めて栄養を取れば問題ないという事だった。

 その為、入院はせずに宿泊施設での休養を取る事になったのだが、一人で寝かせておくのもどうかと思われたので、看病名目で側についている事にしたのだ。

 ティザーベルからは感謝された。

『悪いけど、おじさんの事、よろしくね』

『ああ、任せておいてくれ』

 珍しく気弱そうな様子の彼女が気になったけれど、今はここで寝ているレモの身が最優先だ。

 彼が早くよくなるよう、看病するのが自分に出来る最善の事である。

「ん……」

「あ、目が覚めたのか?」

 倒れて二時間弱。ようやくレモが目を覚ました。薄く目を開けて部屋の中を見回している。

「ここは……どこだ?」

「一番都市の宿泊施設だ。私達も、ここに泊まっている」

「あんた……確か、嬢ちゃんと一緒にいた……」

「フローネルだ。名前は覚えてもらえると助かる」

「だな。悪い……」

 目を覚ましたとはいえ、まだ体調は思わしくないらしい。そういえば、ティザーベルに言われていた事があった。

 確か……

「起き上がられるか? 目が覚めたら、一度水分補給をさせてほしいと、ベル殿から頼まれているんだ」

「すいぶん……? ああ、水か……」

「少し味がついているが、そうまずくはないと思う」

 そう言ってフローネルが差し出したのは、吸い口の付いたゴブレットだ。奇妙な形ではあるけれど、これだとこぼす心配がないと聞いている。

 受け取ったレモは吸い口から二、三度に分けて中身を飲み干した。

「確かに何か味が付いてんな。まあ、飲めなくはねえか。それで? 嬢ちゃんは?」

「お仲間の……ヤードと言ったか? 彼の検査に立ち会っている」

 彼女は随分と彼の心配をしていたから、今頃心細い思いをしているのではなかろうか。

 話を聞いたレモは、重い溜息を吐いた。

「そうか……悪いが、その検査の結果を、嬢ちゃんに聞いてきちゃくんねえか?」

「それは構わないが……」

「俺ならここでおとなしく寝てるって。第一、こんな体調じゃあどこにも行けねえよ」

「……本当だな? ちゃんとおとなしく寝ているんだぞ?」

「ああ」

 再び目を閉じたレモを見て、フローネルは座っていた椅子から立ち上がった。宿泊施設から病院までは、少し距離がある。

 街中を移動するのに勝手に動く車があるが、あれはどうにも乗り方がよくわからない。それくらいなら、ティザーベルに教えてもらった身体強化で走った方が余程楽だ。

 そのまま廊下に出て走り出したフローネルは、途中途中で「廊下を走らないように」という機械的な声を聞きながら、病院まで走り抜けた。

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