拍手 095 百九十二 「別れ」の辺り

 自分の部屋に閉じ込められて、もう半日。彼がいなくなってから、そんなに時間が経っているのかと思い知らされる。

 もう、この里のどこにも、彼はいない。その事が、こんなにも苦しいなんて。

「ツイクス……ツイクス……」

 自分がつけた、彼の名前。その名を呼べば、ぶっきらぼうな彼が振り向いてくれた。それが嬉しくて、何の用事もないのに彼の名前を呼んだ事も多い。

 でも、もう振り向いてくれる彼はいない。

 あの時、あのユルダの女は、彼をなんと呼んだか。確か……

「ヤード……」

 それが、彼の本当の名前だったのだ。でもいい。ユルダの名前など、彼には似合わない。自分がつけた「ツイクス」という名の方が、似合っている。

「う……うう……うええ……」

 先程から、彼の姿を思い出しては泣いてばかりだ。きっと、自分はこの先一生彼を思い続ける。

 祖父や両親などは、時間が経てば忘れるだろうと思っている。でも、この想いは決して消えない。時間になんて、負ける訳がない。

 他のウェソンの里から、嫁にほしいと言われているのも知ってる。でも、この里を出る気はないし、他の男のところに嫁に行く気もない。

 決して忘れない。彼の事は。きっと彼も、私の事を憶えていてくれる。

 そしていつかきっと、私を迎えにきてくれるのだ。種族の壁なんて、なんてことない。子供が出来なくたって、どうとでもなる。

 そうだ、彼が迎えに来てくれるその時まで、自分は自分らしくいればいい。

「そうよね、ツイクス。私達の絆は、そんな簡単に切れたりしないわよね?」

 いつまでも泣いていては駄目だ。ちゃんと前を向こう。

 前を向いて、彼が迎えに来てくれるのを待とう。

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