拍手 077 百七十四話 「エサレナ」の辺り
何だあれは、何だあれは、何だあれは!!
大聖堂前広場で見たものを思い出す度、男は震えが止まらなかった。
悪魔。誰かがそう言った言葉が、頭にこびりついて離れない。
彼等クリール教にとって、悪魔とは最も恐れるべき神敵だ。それと同時に、人の敵でもある。
そんな存在が、本当にいたなんて。
「おい、昨日のあれ、見たか?」
「大聖堂のだろ? 見た見た。ってか、本当にあんなのがいたなんてよお……」
配下の者達の話し声が聞こえる。薄い壁一枚隔てた向こうの休憩所で、話しているらしい。こちらに男がいるのにも気づかず、配下達はおしゃべりに興じている。
「バッカ、お前、悪魔が作り出したエルフが実在するくらいなんだぜ? 悪魔だっているに決まってるじゃねえかよ」
「そうは言ってもよお……」
「それより、今はもっと気にしなきゃいけねえ事があるだろうが」
「何の事だよ?」
「悪魔が現れて、エルフが消えた」
「そうだな。まあ、あれは処刑予定の廃棄奴隷だから、消えたところで長くはもたねえだろうけど」
「そうじゃねえって! 本当にバカだなあお前は。いいか、エルフを作ったのは悪魔だ。その悪魔が現れてエルフが消えた。あの悪魔が、自分が作ったエルフを奪い返しに来たに決まってんじゃねえか!」
「あ……」
「ここにも、他の店の地下にも、まだエルフはいるんだぜ? そこにもあの悪魔が現れたらと思うと――」
「や、やめろよ! 怖えよ」
「でもさあ」
「おめえら! いつまで怠けてやがる!!」
堪り兼ねた男が、壁の向こうへ向けて怒鳴った。まさか自分達の声が隣に聞こえているとは思っていなかった配下達が、慌てた様子で謝罪してくる。
「す、すんません! 親方!!」
「謝ってる暇ぁあったら、とっとと仕事に戻りやがれ!」
男の声に追い立てられるように、隣の配下達はドタバタと休憩室を後にした。
残された男は、震える腕を押さえる。
大丈夫だ、こちらには教会がついているのだ。悪魔など、恐れる必要などない。
教会の、神の教えでは悪魔が作りだしたエルフは人ではないし、神の僕でもない。だから殺そうがどうしようが、神に罰される事はないのだ。
問題ない。そう自分に言い聞かせながら、男は店へと戻っていった。
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