拍手 076 百七十三 「悪魔」の辺り

 痛い。体のあちこちが痛む。足も、もう何度切れた事だろう。体を縛る縄も、肌に食い込む。

「おら! とっとと歩け!!」

 身を縛る縄が力任せに引かれ、倒れた。もう、立ち上がる力もない。なのに、周囲の男達が私を無理矢理立たせてまた歩かせる。

「へ! お前達みたいな汚れた血の連中は、これから神様の前でふさわしい罰を受けるんだよ」

 へらへらと笑う男をにらみつける気力も、もうない。

 一体、私達が何をしたっていうのか。住んでいた里から無理矢理連れ出され、尊厳も何もかも取り上げられた生活を強いられる。

 したくもない事を強要され、逆らえば殴られた。逆らわなくても殴られるようになったのは、いつ頃からだったろう。

 今回私がこんな目に遭っているのも、厄介な「客」のせいだ。奴が、大勢の人の前で殺される私を見たくなったから。

 みんな、死ねばいい。どうしてユルダというだけで、私達をいいように扱っていいと思うのだろう。私達からすれば、ユルダの方が感情的で動物のような存在なのに。

 魔法を禁じているのも、全く訳がわからない。魔法技術がないせいで、ユルダの街はどこも汚いのだ。ここもまた、その一つ。

 この国の王とやらが住まう場所なのにね。里の長の館の周囲は、いつでも綺麗なのに。里だって、ゴミ一つ落ちていない。

 エルフは子供の頃から、道にゴミを捨ててはいけないって親に教わるのだもの。ユルダはそれがないのね、可哀想に。

 やがて、私は広場に引きずり出された。ここの中央で、火にかけられると聞いている。

 もういい、この苦痛が終わるのなら、早く終わってほしい。


 そう、思っていたのに。周囲が何やら騒がしくなったと思ったが、一瞬でまったく違う場所にいるなんて。

 その場で意識を失って、次に気づいたら清潔なベッドに横になっていた。あれ程痛んでいた体は、もうどこも痛くない。

 ユルダの街に連れて行かれてからは汚れるばかりだった体も、綺麗になっている。身につけているのも、肌触りのいい上質な寝間着だ。

 ここは、一体どこなんだろう。私は、どうしてここにいるんだろう。


 その疑問が解けた先に、私には新しい生活が待っていた。本当に感謝しかない。里から出たエルフは、理由の如何を問わず二度と里には戻れない。

 ここには、私と同じような境遇のエルフばかりがいる。あの大っ嫌いな地下空間で一緒だった子達もいた。

 誰が手配してくれたのかは知らないけれど、本当に神様のような存在だと思う。ユルダの神なんかじゃない、エルフに昔から伝わる神様だ。

 神様、ありがとう。私はここで元気に生きていきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る