拍手 074 百七十一話 「周辺の解放」の辺り

 朝起きると、お日様の光をたくさん浴びる。ああ、今日もいい天気だ。

「おはよー」

 窓を開けて、鳴いている小鳥に挨拶する。もちろん、返事はないけど。

 こんな何でもないような事が、たまらなく嬉しいし幸せだ。ついこの間まで、こんな普通の事すら出来なかったんだから。


 身支度をした後、部屋を出て一階の食堂に下りる。今日から十日間は食事当番だから、早めに起きなきゃ。

「あ、おはよう」

「おはよう。遅れた?」

「大丈夫。まだ揃ってないから」

 仲間と挨拶をしつつ、厨房に入った。今朝の分の野菜はもう用意されている。ダンジョンの畑からの直送だ。

 野菜を洗っていると、残りの当番がやってきて、みんなでわいわい言いながら朝食作り。今朝のパンもおいしく焼けてる。

 あらかた仕度が調った辺りで、食堂入り口の鐘を鳴らす。この音で起きる人もいるって聞いた。さあ、配膳だ。


 あの最低な地下空間から連れてこられたのは、広々と開けた新しい里だった。まだ建物が十分に揃っていないので、里の中央にある大きな館での共同生活だけど、誰も文句は言わない。

 当然だ。あの地獄のような環境から抜け出せただけ、幸せってものだから。本当に、あの時救いに来てくれたクオテセラのフローネルには、感謝しかない。

 本人曰く、自分は使いっ走りなだけだって言っていたけど。

 じゃあ、私達を助けてくれたのって、誰なの? クオテセラの長じゃないのかな。聞こうにも、フローネルはなかなか里に来てくれないし。

「バカね、誰でもいいじゃない。今、ここでこうして暮らせているのが大事なんだから」

 同じ街に囚われていた、別の里出身の子が言う。確かにそうなんだけど、気になるじゃない。

 でも、私の意見に賛同してくれる人はあまりいない。それもそうか。下手に詮索してこの生活がなくなったりしたら、大変だもの。

 自分の意思ではないとはいえ、許可なく里の外に出たエルフに、里は冷たい。掟だからと決して受け入れてはくれないのだ。掟を破ったエルフを受け入れる里などどこにもないから、実質野垂れ死ねという事らしい。

 だからか、この里が開かれた際に、全ての里共通のこの掟だけは廃止されたという。当たり前だ。何せ里にいるエルフ全て、自分が暮らしていた里から連れ出された者ばかりなのだから。

 共通の掟を作ってしまったら、誰もこの里に残れなくなってしまう。


 ことあるごとに、今の幸福を噛みしめる。本当に、助けてもらえて良かった。この恩は必ず返さなくては、と思うものの、フローネル本人からは何も求められていない。

 彼女からは、「他に困っているエルフを見つけたら、その時は助けてやってほしい」とだけ言われた。

 この後も、この里には捕らえられていたエルフが送られてくるとも。

 新しく来るエルフを温かく迎えるのが、彼女への恩返しになると信じて、今日も一日過ごそうと思う。私には、それくらいしか出来ないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る