拍手 073 百七十話 「魔女狩りの国」の辺り

 杭にくくりつけられ、足下には藁束や薪が積み上げられる。

 私達はこれから、神に逆らった罰として焼き殺されるのだ。

 神様、私が、私達が何をしたっていうんですか? 私達は、あなたの教えを守り日々を懸命に生きていただけなのに。

 ある日、家にいきなり教会兵団がやってきて、私と娘をあっという間に捕らえてしまった。

 送られた先は、異端審問所。ここに入ったが最後、生きて帰る事はないという。

 拷問で殺されるか、魔法使いとして殺されるか。

 私も娘も、すぐに審問にかけられた。口にするのも憚られるような屈辱の果て、今度は拷問されるという。

 仲間の名前を吐けと言われた。仲間といっても、私は魔法なんか使えない。もし彼等の言うとおり魔法を使えるのなら、目の前の審問官を殺してとっくに逃げている。

 腕を後ろにひねり上げられた。痛みで何も考えられない。そんな時、審問官が私の耳に囁いた。

「お前を売ったのは、お前の亭主だ」

 ふざけるな、あの野郎。知ってるんだ、あいつが二件先の後家に言い寄られているのを。いつか浮気すると思っていたら、とんだくそ野郎だった。

 なら、容赦なんてしない。

「仲間を教える。うちの亭主と、二件先の後家だ」


 足下の藁束に火が付いた。熱と煙で苦しい。でも、私をこんな目に遭わせたあいつらも、いずれはこうなる。

 そうでなければ、あの暗くジメジメした拷問部屋で殺されるかだ。

 ざまあみろ。

 心残りは、娘だけだ。あの子だけは助けたかったけど、ダメだった。私の目の前で拷問により死んだ時、神を呪った。

 もう神なんて信じない。神は私達を救ってはくれなかった。


 神なんて、この世にいない。

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