拍手 039 百三十六話 「拾いもの」の辺り

 ジンストが村人数人と街道を進むと、それは見えてきた。

「何だ? これは……」

 ジンスト達の前には、後ろ手に縛り上げられた盗賊達が転がっている。彼等は口々に汚い言葉で、彼等をこんな状態にした相手を罵っていた。

「あの小娘ええ! 見つけたらただじゃおかねえ!!」

「俺の、俺の馬を連れて行きやがって! あんの泥棒が!!」

「ふん捕まえて身ぐるみ剥がしてやる!!」

 なかなか盗賊らしい言葉だが、縛り上げられて転がされている現状を考えると、村人からは失笑しか出てこない。

「おい、誰か街まで兵団を呼びに行ってくれ」

「わかった」

 村人達のまとめ役である男が、すぐ側にいた村の若者に声をかけると、若者はいい返事をして盗賊の馬にまたがった。

「おい! 俺らを兵士達に渡しやがったら、どうなるかわかってるんだろうなあ!?」

「ああ、もちろん。お前らが縛り首になるんだよ」

「ふざけんな!! 俺らの後ろにゃあなあ、お偉い人がついてるんだぜえ!? おめえら全員、逆に縛り首にしてやる!!」

 盗賊の言葉に、まとめ役の男はジンストと顔を見合わせて溜息を吐いた。

「もしそうなら、兵団が到着する前にお前らはここで全員死刑だ」

「な!」

「うちみたいな小さい村では、そうしてもいいって領主様からお許しが出てるんだよ」

 もちろん、嘘である。だが、盗賊達は信じたようで、すっかり静かになった。


 兵団が到着したのは、翌日の事だ。盗賊達は無事兵団に引き渡され、街で公開処刑される事になるという。

「そういえば、盗賊共がこんな事を言っていたんですが……」

 そう言って、まとめ役が兵団長に盗賊共の背後云々を伝える。それに対し、兵団長はからからと笑った。

「ああ、以前そうした話があったそうだ。だが、その偉いさんも盗賊共々捕まってとっくに処刑されている。大方、その噂を聞いて利用しようと思ったんだろう。馬鹿な連中だ」

 からからと笑う兵団長とは裏腹に、引き渡される盗賊達の顔は暗い。どうやら、兵団長の言葉が正しいらしい。

 こうして盗賊の難から逃れたクピ村は、再びのんびりとした時間を過ごしている。

「そういえば、あの打ち上げられていた子、どうしたかねえ?」

 妻の問いに、ジンストは盗賊騒動の時を思い出す。本当にきっちり縛り上げていたのには驚いた。いくら冒険者だとしても、手際が良すぎる。

 だが、話を聞こうにも既に本人はいない。仲間がいるような事を口にしていたから、探しに行ったのだろう。

 それを言うと、妻は驚いた顔をした後、少し不満げにした。

「それにしたって、もうちょっといても良かったろうに」

「向こうにも向こうの都合があるのさ」

「だけどさあ」

「仕方がない。彼女は流れ者なんだから」

 この辺りの言葉で、流れ者とは特定の住居を持たない旅人の事を指す。ある意味、帝国の冒険者の事とも言えた。だから、間違った事は言っていない。

 ただ一つ、消えた彼女が魔法士だという事だけは、永遠に胸にしまっておこうと思うジンストだった。

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