拍手 038 百三十五話 「出発」の辺り

「あ」

 出がけに、靴の紐が切れた。

「あ」

 職場に向かう途中、黒猫が目の前を横切った。

「あ」

 いつも通る店の前に飾られていた鏡にひびが入っている。

「あ」

 職場で愛用しているカップの取っ手が取れた。

「……不吉な」

 セロアは、ちょっと背筋がぞっとした。


「うお!」

 愛用のカップを落として割った。クイトは、あーあと言いながら、落ちたカップに手を伸ばす。

「ふん!」

 謎の気合いを入れると、今し方落ちて割れたカップが、時間を巻き戻すように床から彼の手の中に戻った。もちろん、割れていないどころかヒビ一つ見当たらない。

「魔法って、本当便利だよなー」

 そう言いながら、見かけた時にヒビの入った鏡や切れた靴紐も同様に修理し、その日一日つつがなく過ごした。

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