拍手 037 百三十四話 「やるべき事」の辺り

 一人の女性が、浜辺を眺めていた。

「あれ? ルアさんじゃないか。今日もかい?」

「何だかねえ。もう癖になっちまっててさ……こうして海を眺めていたところで、倅が帰ってくる訳でもないのにねえ……」

「ルアさん……」

 ルアの息子は、十五年前に船で漁に出たっきり、帰ってこない。一緒に漁に出た仲間の話によると、一人でどんどん沖に行ったというから、おそらく流されたのだろう。

「ジンストも馬鹿だよ。嫁さんもらう目前だったっていうのに……」

「まあ……な。そういや、ルラベルはあの後、隣村に嫁に出たんだっけ?」

「そう。向こうで元気にやってるってさ」

 ルラベルは、ジンストの許嫁だった。彼とは、帰ってこなくなった年のうちに所帯を持つ約束だったのだが。

「あの子には、可哀想な事をしたよ……三年も待たせちまって。もっと早く、余所に嫁に行くよう言うべきだったのに……」

「まあ、そう言いなさんな。ルラベルは、ジンストに惚れ込んでいたからさ……」

 親同士が決めた結婚だったが、お互いに想い合っていたから幸せになると、誰もが思っていたのに。現実は、ジンストが海で行方不明になり、ルラベルは別の村に嫁ぐ事になった。嫁ぎ先で元気に暮らしているのが、せめてもの救いか。

「まったく、あの親不孝者が……」

「ジンストも、あの世で親父さんに叱られてるだろうぜ」

「そうだね……」


 ここから遙か北西にある大陸の端で、ジンストが生きて家庭を築いているなど、彼等が知るよしもない。

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