拍手 034 百三十一話 「コピー」の辺り

 ネーダロス卿が、クイトの後見から降りるという情報は、あっという間に帝国上層部に知れ渡った。無論、ネーダロス卿自身が情報をばらまいている。

「聞いたか? あの話」

「もちろんだ。厄介なじいさんの庇護下から抜けたのなら、あの小童を仕留めるのも楽というもの」

「十六番目という半端な立場にありながら、魔力だけは高いせいで陛下の覚えもめでたいからな……」

「「「我らの殿下の邪魔になるのならば!」」」


「ん?」

 気がつくと、最近クイトの周囲でおかしな事が起こっている。物が落ちてきたり矢が飛んできたり。この間などは、食事に毒が仕込まれていたようだ。

「んん~?」

 今更自分が暗殺対象になるとは思えない。何せ帝位継承からはほど遠い場所にるのだ。現在、立太子されている皇太子は、今上帝の第三皇子で皇后の一番上の息子だった。

 クイトの母は庶民の出で、ネーダロス卿が現役の時にペジトアン侯爵家の養女として、皇帝の後宮に上がった女性だ。その美しさで、皇帝の寵愛を欲しいままにしたという。

 クイトが生まれてもその寵愛は衰えなかったそうだが、その為に早死にした人だ。美人薄命とはこの事か。

 クイト自身、母の記憶は薄い。何せ彼が三歳の時に亡くなったのだから。しかも、クイトが前世の記憶を思い出したのは、彼が十六歳の時だ。その際、過去の記憶は消えなかったけれど、大分薄まってしまっている。

 彼の中身が変わってしまった事に気づいたのは、後見役のネーダロス卿が最初だった。おかげで、お互いが転生者だとカミングアウトする羽目になったのだけれど。

 そんなクイトの命が、今更狙われるというのはどうしてなのか。

「なあなあ、じいさん。最近、僕の周囲が騒がしいんだけど」

「それはそうだろうね。私が後見役を降りた事は、皇宮の誰もが知っているから」

「じいさんの後見がなくなったくらいで、どうして命を狙われるのさ……」

「だから、もう少し皇宮の政治というものを学べとあれ程言っただろうに……」

「どうせ皇宮からは出るんだから、いらないと思ったんだよ。今も、暗殺者の攻撃はかわせるから別に困ってないし」

「やれやれ。それも、彼女に教えてもらったものかい?」

「そう! これ凄い便利だよ! 物理攻撃の中には毒による攻撃も含まれるらしくてさ、料理の中から毒だけはじき出されていくの。見てるのも楽しい!」

「……彼等の方にこそ、同情するよ」


 その後、クイトシュデン皇子の暗殺は、不可能とされて中止となった。首謀者達の元には怖い贈り物がネーダロス卿から届いたが、誰も口にする事はなかったという。


クイトは死亡フラグをへし折りました。

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